2004年4-5月


2004/05/29
チンパンジーとヒトの遺伝子は8割以上異なる
 理化学研究所などでつくる国際共同研究チームがチンパンジーの22番染色体とヒトの染色体を比較した結果、生命の設計図であるゲノム(全遺伝情報)の暗号文字(塩基配列)の違いは約5%だったが、タンパク質を作る遺伝子の配列では8割以上で違いが見つかったと報告した。(毎日新聞、朝日新聞など 04/05/27)
 この報告は、とても興味深い。これまで、ヒトとチンパンジーの違いは1%位と考えられていたが、両者の違いは、意外と大きいことが分かった。そうすると、進化はどうなるのだろう。ヒトはアフリカで生まれたとされているが、その考え方と矛盾はないのだろうか。これだけ多くの遺伝子の変異が一度に起きたのだろうか。


2004/05/27
 厚労省は、がんが治ったなどを掲載した体験本を出した出版社に対し、虚偽・誇大広告を禁じた健康増進法に基づく改善指導を行った。出版社への指導は初めて。出版社が一定期間内に改善しない場合、勧告や罰金などの措置を取るとしている。(毎日新聞04/5/27)
 健康に関するとんでも本はかなりあるが、言論の自由との関わりがあり、判断はかなり難しい。上記の改善指導も本としてではなく広告としての判断である。とんでも本に対抗するためには、科学的な考え方の普及、そのための地道な努力が大切である。


04/05/26
 ノーベル賞受賞者の小柴昌俊さんが、衆院文部科学委員会で総合科学技術会議の人選に対して、「長のつく職にあったからといって、科学をちゃんと判断できる保証はない」と述べたと毎日新聞が伝えている。
 小柴先生に同感である。科学が分からない「長」は少数ではない。



04/05/25
 ドイツのハンブルクで先週末、野菜で出来た楽器による「野菜オーケストラ」が開催されたとCNNが報じている。音も下記のサイトで聞けるが、まずは聞いてみてのお楽しみである。野菜の楽器の形はイメージと違った。
 交響楽団の公式サイトhttp://www.gemueseorchester.org/anfang_e.htm


04/05/24
 世界保健機関(WHO)は22日の総会で、「食事と運動と健康に関する世界戦略」を採択した。この世界戦略は、生活習慣病を防ぐため、バランスの取れた食事と適度な運動を行い、脂肪や砂糖、塩の摂取を減らし、果物や野菜の摂取を増やすことを勧めている。そして、この世界戦略を実現するための政策として、農業政策、課税・補助金などを通じた健康促進策、未成年者の食習慣に悪影響を与える広告の自粛などを進めるよう勧告した。
 果物を多く摂取することがWHOの勧告に盛り込まれたことから、「毎日くだもの200g」運動に弾みにつくことを期待したい。WHOのサイトは下記。
http://www.who.int/mediacentre/releases/2004/wha4/en/
詳細は、次回メルマガ13号で報告の予定。


04/05/23
 大学を卒業して以来、何十年ぶりかで経済学の本を2冊読んだ。「会社はこれからどうなるか」岩井克人著(平凡社)と「虚妄の成果主義-日本型年功制復活のススメ」高橋伸夫著(日経BP社)である。中身の紹介は別の機会にゆずるが、カネの動きを中心として組み立てられている近代経済学が大変革期にあるように感じた。どちらの本も、21世紀には、相対的にカネの価値が下がり、人的資源の重要性が増すと述べている。一般向けに書かれているので、論文調でも翻訳調でもなく読みやすく、理論の理解も容易である。2冊とも読まれることをおすすめする。高橋氏の「今からでも遅くないから成果主義をやめなさい」は印象的である。


04/05/18
 北海道大学などのグループが、常緑針葉樹が寒さに耐え、成長できる仕組みを解明(毎日新聞04/5/17)

 植物は、葉緑体と呼ばれる細胞小器官の中で、光のエネルギーを使って二酸化炭素と水からグルコース(ブドウ糖)などの有機化合物を合成し、成長する。ところが、外気温が下がると、葉緑体は光のエネルギーを使い切れなくなってしまう。そうすると、余分な光エネルギーは有機化合物を作らずに活性酸素を生成する。このままでは、発生した活性酸素によって、葉緑体が破壊されてしまうので、エゾマツなど北海道以北の常緑針葉樹の葉の葉緑体は、過剰な光を受けないように、細胞の表面から内部に移動する。
 すなわち、寒いと、光は葉緑体を破壊するので、植物は成長できない。ところが、寒い場所でも生育できる植物は、光による傷害を回避するため、葉緑体を細胞の内側に移動して隠してしまうのだそうである。
 独創的で、とてもおもしろい研究である。今後の研究の進展が楽しみである。


04/05/17
 下記の記事、夫読むべし、夫以外読むべからず?(毎日新聞-女の気持ち)

結婚記念日に http://www.mainichi-msn.co.jp/kurashi/women/kimochi/tokyo/
archive/news/2004/03/20040323ddm013070034000c.html


夫の仕打ち http://www.mainichi-msn.co.jp/kurashi/women/kimochi/tokyo/
archive/news/2004/04/20040404ddm013070052000c.html



04/05/16
 「17年ゼミ」羽化始まる 米東部で数十億匹予想(毎日新聞、朝日新聞など)

 なぜ、17年に一度、セミが羽化するのかは不明なようだ。仮説はgoogleなどで検索すると読めるが、その前に、自分の仮説を立ててみてはどうだろうか。そして、その仮説を証明するための方法などに思いめぐらすとかなり楽しめると思う。17が素数というのも興味深い。ただし、17年ゼミといっても、今回はワシントン周辺での発生で、他の地域は別の年に羽化するとのことである。そのため、アメリカ全体では、17年ごとに発生するという分けではないようだ。


04/05/13
 戦いが終わったら母になりたい (映画Appleseed予告編より)

 心に残るフレーズである。毎日新聞の元イラク戦争従軍女性記者が、娘からの母の日の贈り物のことを書いている。心に残る文章である。下記の記事に是非アクセスしてほしい。
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/yuuraku/news/
20040512dde041070033000c.html

(毎日新聞のサイトなので、公開は1ヶ月くらいか。おはやめに 04/7/2現在、アクセス可)


04/05/12
 長崎大学が安心して食べられるトラフグ肝の無毒化に成功(朝日新聞5/12)

 トラフグの肝には猛毒のテトロドトキシン(テトラドトキシン:tetrodotoxin)が含まれているが、フグ自身が毒素を合成するのではなく、フグの腸内細菌による合成、餌からの摂取で蓄積すると考えられていた。長崎大学のグループはこのことに着目して、毒のないトラフグの養殖技術を開発した。

 ふぐを食べる習慣がある日本の研究は、世界的レベルにある。ふぐ毒は、1909年、東京大の田原良純らが最初に発見した。そして、テトロドトキシンの化学構造の決定には世界の有名な研究室がしのぎを削り、先陣争いを行った。その結果、1964年(東京オリンピック開催年)、京都で開かれた国際天然物化学会議において、名古屋大農学部の平田義正ら、東京大の津田恭介ら、ハーバード大のWoodward(ビタミンB12の合成でノーベル賞受賞)らの三グループが、同時に同じ構造を発表するというドラマチックな展開となった。毒素の全合成は、名伯楽といわれた平田門下の岸義人(名古屋大→ハーバード大)らが、さらに、不斉合成(光学異性体の選択的合成)は、同門の磯部稔(名古屋大)らが達成した。

 一方、フグ毒が生命科学の発展や難病克服に貢献してきたことはあまり知られていない。フグ毒は、イオンチャンネルにナトリウムイオンが流入するのを阻害することにより、人の神経を麻痺させる。フグ毒の研究が、突破口となり、イオンチャネルの確認と活性解明、チャネルタンパク質の構造解析など、革命的な発見につながり、生命科学の発展に大きく寄与した。


04/05/07
 三菱車輪脱落事故について、「真相を発表すべきだという人がなぜ一人も出てくれなかったのか。妻の無念さを考えると、このような企業が存在していたこと自体を許すことができない」と遺族が談話を発表(朝日新聞、毎日新聞など04/05/06)。
 雪印食品の例を引くまでもなく、社の存亡にかかわる事件である。技術陣の開発力・資質に疑いがもたれているので信頼回復は、容易ではない。


04/05/03
 憲法記念日なので、憲法と科学についてのアメリカでの論争を紹介する。「科学と有用な技芸の発展を促進する」場合において著作権を与えるとアメリカ合衆国憲法に定められており、このことに対する論争である。科学の成果は誰のものかが議論されている。

記事の題:憲法を侮辱するSCOのFUD
http://blog.japan.cnet.com/lessig/archives/000875.html

上記の記事を読むための用語解説

Linux
 1991年にフィンランドのヘルシンキ大学の大学院生(当時)Linus Torvaldsによって開発された、UNIX互換のOS。その後フリーソフトウェアとして公開され、全世界のボランティアの開発者によって改良が重ねられている。

SCO訴訟とは
 SCO(会社:下記参照)が、ユーザへのライセンス契約の方針を打ち出し、自社の持つUnixのライブラリをLinuxが無許可で使用しているとIBMに対して巨額の賠償請求を求めて裁判所に訴えをおこしたこと。訴えの主な内容は、「SCOが知的所有権を持つUnixの企業秘密を侵害して、Linuxへコードを不正に流用した」ことである。

 さらに、SCOはLinuxユーザに対して「Unixライブラリ」の使用に対する課金を求めている。しかし、フリーソフトウエアの開発者、支持者などからは、LinuxのライセンスであるGPLを侵害するものとして、猛烈な反発を招いている。

SCO (Santa Cruz Operation)
 アメリカのソフトウェアメーカー。

FUD
 FUDとは、不安(Fear)、不確実(Uncertainty)、不信(Doubt)を表す。FUD は、競合相手が自分達のものより優れていて、しかも価格も安い、つまりは自分達の製品では太刀打ちできない製品が発売されるときに利用されるマーケティングのテクニック。

FSF (Free Software Foundation)
 Richard Stallmanがフリーソフトウェアの普及を目的として創設した非営利の民間団体。ソースコードとともに公開され、誰でも自由に修正・再配布を行えるソフトウェアを「フリーソフトウェア」と呼ぶ。すべてを自由とすることでソフトウェアを人類の共有財産として取り扱う。

GPL (The GNU General Public License / 一般公衆利用許諾契約書)
 FSFの理念に基づいて明文化されたソフトウェアライセンス体系。ソースコードの公開を原則とし、使用者に対してソースコードを含めた再配布や改変の自由を認めるとともに、再配布や改変の自由を妨げる行為を禁じている。


04/05/02
 東京大学経済学部の高橋伸夫教授は、成果主義、能力主義は誤りであると指摘している。客観的評価といわれる結果に違和感を感じていたが、なぜなのかがよく分かる。現場から遠い、アイデアのない経営者ほど誤りやすいそうである。
http://www.e.u-tokyo.ac.jp/~nobuta/bibliography/phase2004s.pdf


04/04/30
 アメリカ政府は、将来糖尿病を発病する危険性が高い“予備軍”(pre-diabetic)の数が約4100万人に上るとの新推計を発表した。糖尿病患者は約1800万人いるため、米国民の5人に1人が糖尿病かその予備軍という。米糖尿病協会が昨年、正常な血糖値の上限を引き下げたため、従来約2000万人だったのが一挙に倍増した。特に、40-74歳の40%が糖尿病予備軍と判定された。
 2002年の日本の調査では患者が740万人、可能性が否定できない人が880万人とされている。(CNN/共同通信など 04/04/30)


04/04/29
 中村修二・米カリフォルニア大サンタバーバラ校教授は、なぜ、「特許対価200億円訴訟」を起こしたのであろうか。今まで多くの新聞で報道されてきたが、研究の対価として妥当かどうかなどの解説が多く、しっくりこなかった。ところが、下記の東京新聞(04/2/14)の記事を読み、中村教授の気持ちの一端が理解できた。「研究の成果が出てきたときがもっとも幸福であった」と述べている。やはり、研究者は、金のみで働くことはないと思った。この記事を読んで、今回の訴訟は、会社側、正確に言えば現経営陣に問題があるように感じられた。
 http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20040214/
mng_____kakushin000.shtml



04/04/25
 相対性理論の「予言」検証する衛星打ち上げ
 巨大な質量をもつ物体の周囲では時空がゆがんでいる。物理学者アインシュタインの「予言」を観測するため、米航空宇宙局(NASA)は20日、人工衛星GP―Bを打ち上げた。うまく行けば、1年半ほどのうちに結果が出る。
 光を曲げる重力レンズが宇宙空間に存在することなどから、アインシュタインが一般相対性理論(1916年)に書いた「予言」の正しさは、おおむね証明されている。今回のGP-Bは、地球の質量が周囲の時空をゆがめている様子を、初めて直接検出するのが目的だ。(朝日新聞 04/04/21)
 優れた研究は、既知の現象を説明できるだけでなく、未知の現象を予言できる。研究者で、このことを理解できないと、論文を量産しただけで終わる。


04/04/23
 4月15日から16日にかけて火星探査車スピリットの活動が100日を突破し、快調にコロンビア・ヒルズと名付けられた丘陵地帯を目指して走行している。一方、2号機のオポチュニティーも16日に81日目を迎えた。2台の探査車は、9月まで延長された火星探査期間の新たな段階に入った。(時事 04/04/17)
 このプロジェクトで火星に水が存在することが明らかとなった。NASAの研究者の喜びの顔をニュースで見て、こうゆう感動を共有したいなと思った。リスクを負いながらも、長く、淡々とした努力が報われた瞬間である。


04/04/22
 「マウス妊娠にオス不要? 卵子2つでメス誕生。 東京農大から報告」(毎日新聞、朝日新聞など 04/04/22) 
 世界が注目するであろうすばらしい研究だと思う。もとの論文をよく読んで、サイエンス欄に詳細を報告したいと考えているが、いつになるかは風まかせ。
Scientists conceive mouse with two moms
   Men, your gender just took a hit in the animal kingdom. Scientists report they've created mice by using two genetic moms -- and no dad.  (CNN 04/04/21)


(この欄について)
 気ままにつづる断片録のようなもの。長く続くか心配でもある。(04/04/22)