2006年1月


2006/01/31 耳あかのタイプは1塩基の違いで決まる
 人間の耳あかにはパサパサした「乾型」と脂肪分でネットリとした「湿型」の2つのタイプがあるが、そのどちらかは1つの塩基で決まることが分かったと長崎大の研究者らが発表した。
 耳あかの乾湿は遺伝によることが分かっていたが、具体的な遺伝子は不明だった。日本人は7割以上が乾型だが、白人や黒人は97~99%が湿型など、民族で違いが大きいことも知られていた。
 長崎大の吉浦孝一郎助教授らは、長崎県在住の日本人126人の耳あかの型を調査した。同時に「ABCC11」と呼ばれる遺伝子の特定の部分が「アデニン」(A)という塩基でできているか、グアニン(G)でできているかを分析した。
 乾型は88人おり、うち87人が、父母の両方から「A」でできた遺伝子を受け継いでいる「AA」型に分類された。湿型は38人で、全員が父母の片方または両方から「G」を受け継いだ「GA」型か「GG」型だった。
 以上の結果から耳あかの乾湿を決めるのは、父母のどちらかから「G」を受け継ぐと、耳の中で脂肪分が分泌されて耳あかが湿型になると結論づけた。
 1人だけ、「GAなのに乾型の人がいたが、この人の遺伝子は一部が欠けており、脂肪分を分泌する働きが失われていると考えられた。
 さらに詳しく遺伝子を分析し、考古学の研究と合わせると、この遺伝子はもともと「G」型が一般的だったが、約2万年前にシベリアなど北東アジアに「A」型に突然変異した人が1人現れ、その子孫が世界に広がったと示唆している。

【文献】
Yoshiura, K., et al.: A SNP in the ABCC11 gene is the determinant of human earwax type. Nature Genetics. (Published online: 29 Jan. 2006) [doi:10.1038/ng1733]


2006/01/30 最古のブドウの木がパリ・ワイン博物館へ
 スロベニアのマリボルにある「世界最古のブドウの木」の株が1月28日、パリのセーヌ川近くにあるワイン博物館前に移植されたと毎日新聞が伝えている(2006/1/29)。
 ブドウの木は樹齢約400年で、世界最古のブドウの木としてギネスブックにも認定されている。ワインに関するさまざまな文化遺産を展示する同博物館は、今回の移植について「スロベニアの宝をパリに譲り受けることができて光栄だ」としている。

パリにあるワイン博物館情報
 パリ16区にある。15世紀、修道会によって使用されていた建物がワイン博物館となっており、フランスワイン、ワインの造り方、ワイン造りに必要な道具類などを紹介している。
 ワイン博物館のホームページは下記。
http://www.museeduvinparis.com/gbmusee/index.htm

 「最も長命なブドウの木」はメルマガ「果物&健康NEWS」71号で紹介した。
http://www.kudamononet.com/Kudamono&Kenko/
back_number/K&K_No71.html



2006/01/28 イソフラボン、大豆タンパク質と心臓病との関係
 アメリカ心臓協会(AHA)の栄養委員会は、大豆タンパク質やイソフラボンを多くとっても、悪玉コレステロール(LDL)を減らすことは期待できないと発表した。
 大豆タンパク質について調べた22件の研究を検討した結果、多く摂取してもLDLは3%しか減少せず、善玉コレステロールや血圧には影響がないと結論づけた。また、大豆たんぱく質のサプリメントを多く摂取しても、心臓病予防効果は得られないとしている。
 イソフラボンのサプリメントについても、更年期のほてり、乳ガン、骨粗鬆症などに効果があるとされているが、これらの効果や安全性についても、確認できなかったとしている。
 上記の結果は、大豆製品の摂取が心臓病に効果がないことを示している分けではない。同委員会は論文の中で、大豆には食物繊維やビタミンなどを多く含むため心臓病の予防のために有効な食品であると述べている。ただし、イソフラボンなどのサプリメントの効果はないか、ほとんどないとしている。

【文献】
Sacks, F.M., et al: Soy Protein, Isoflavones, and Cardiovascular Health. An American Heart Association Science Advisory for Professionals From the Nutrition Committee. Circulation (online 17 Jan 2006) [doi: 10.1161/CIRCULATIONAHA.106.171052]


2006/01/27 運動はアルツハイマー病発症を遅らせる
 少なくとも週3日軽度の運動を続ければ、高齢者に見られるアルツハイマー病や他の認知症の発症リスクが30~40%低下することが分かった。
 1994~2003年にかけて、65歳以上の男女1740人を対象に、健康、身体および精神機能、生活習慣を評価した。研究開始時には、認知症と診断されておらず、自宅で介護を要する状態ではないことを確認した。その後、2年に1回検診し、運動習慣、身体能力、記憶力、注意力、集中力を評価するため問診を実施した。
 検討期間の6年間で、アルツハイマー病の発症例は107例、その他の認知症を来した例が51例、死亡は276例であった。研究開始時に15分間の運動を週3日以上定期的に行っていた人は、それより運動量が少ない人に比べ認知症の発症リスクが32%低かった。
 以上の結果より、定期的な運動はアルツハイマー病や他の認知症の発症を阻止することはできないものの、長期にわたり発症を遅延させる可能性があるとしている。

【文献】
Larson, E.B., et al.: Exercise Is Associated with Reduced Risk for Incident Dementia among Persons 65 Years of Age. Ann. Inter. Med. 144: 73-81. (2006)


2006/01/26 男性はフェアの行動に共感
 他人が苦痛を受けるのを見て満足感を覚える傾向は、女性より男性に強くみられると、イギリス・英ロンドン大のチームが科学雑誌Natureに発表した。
 男女の被験者を二人組にして経済ゲームをさせ、パートナーがフェアにふるまう場合とアンフェアにふるまう場合とを作り、その後パートナーに罰(軽い電気ショック)を与えて、その際の脳活動を機能的磁気共鳴画像法で測定した。
 好感を持った相手が苦痛を受ける場面では、男女とも「共感」や「痛み」を感じる部分が活発に反応し、同情を感じていることが分かった。しかし、きらいな相手が苦しんでいる姿を見せると、男性では共感の反応がまったくみられず、褒美を受けた時のような満足感が目立って増大した。一方で女性は、弱いながらも共感を示していた。
 従って、少なくとも男性では、他人の社会行動の価値付けによって、フェアな対戦者に対しては共感し、アンフェアな対戦者への体罰を好むように共感反応が変化することがわかった。この発見は、利他的な罰という考え方を支持する最近の証拠と符合する。
 また、参加者へのアンケートでも、男性は女性に比べて相手に仕返ししたいという願望が強く、ずるい人物が罰を受けるのを見て満足感を得る傾向が高いとの結果が出たという。
 ただし、研究を推進した筆頭研究者は「この実験では心理的、経済的な苦しみでなく、身体的な苦痛だけを扱ったために、男性が強く反応した可能性もある。男女差を立証するためにはさらに大規模な研究が必要だ」と述べている。

【文献】
Singer, T., et al.: Empathic neural responses are modulated by the perceived fairness of others. Nature (online 18 Jan. 2006) [doi: 10.1038/nature04271]


2006/01/25 植物がメタンを放出
 陸上の植物が大量のメタンを大気中に放出していると、ドイツのマックス・プランク研究所のグループが科学雑誌Natureに発表した。この予想外の発見が確かなものだとわかれば、温室ガスの収支とメタン供給源の研究の両方に大きな影響を与える。
 メタンは主要な温室効果ガスの1つであり、産業革命以前と比較して大気中濃度がほぼ3倍に上昇している。このガスは大気の酸化的化学反応で中心的な役割を果たし、成層圏のオゾン量および水蒸気量に影響を及ぼしている。
 今まで、大気中のメタンは、大部分が無酸素的環境における生物学的過程から生ずると考えられていた。ところが、今回の発表では、有酸素条件下で陸上植物がメタンを放出することが示された。
 今回得られた測定値が一般的な数値であると仮定し地球全体に換算すると、生きている植物は62~236 Tg yr-1、落葉落枝などは1~7 Tg yr-1もの規模のメタン源になるものと推定される(1 Tg=1012g)。
 今回見いだされたメタン供給源は地球のメタン収支に重要な意味を持ち、過去の気候変化に天然のメタン供給源が果たしてきた役割の再検討が必要になると、研究者は考えている。

文献】
Keppler, F., et al.: Methane emissions from terrestrial plants under aerobic conditions. Nature 439: 187-191. (2006) [doi: 10.1038/nature04420]


2006/01/24 「だいち」打ち上げ成功
 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は平成18年1月24日10時33分(日本時間)に、種子島宇宙センターから陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)を搭載したH-IIAロケット8号機を打ち上げた。8号機は正常に飛行し、打上げ約16分30秒後に「だいち」を分離したことを確認したと発表した。

種子島宇宙センター総合指令棟(RCC)からの打ち上げ当日の速報は下記サイト
http://h2a.jaxa.jp/rcc/index_j.html

打ち上げの画像は下記サイト
http://h2a.jaxa.jp/live_j.html


2006/01/23 今日の火星
 火星探索車「スピリット」、「オポチュニティー」から送られてきた最新画像は下記のサイトで見られる。
http://marsrovers.jpl.nasa.gov/home/index.html

「スピリット」からの360度は下記の画像では、「スピリット」の車のあとが2本真っ直ぐに続いている。
http://marsrovers.jpl.nasa.gov/gallery/press/spirit/
20051205a/Summit_360_L2456atc-A586R1_br.jpg



2006/01/22 地底410kmの含水マグマの安定性
 岩石がとけて液体となったマグマは、周囲に比べて密度が小さいため、上昇して、地上で噴出する。マグマだまりが存在するのは、地下数十キロ程度の深さまでと考えられてきた。ところが、地震波による解析で約410kmの深さにも液体らしい存在が明らかにされた。
これまで、水を含まないケイ酸塩マグマについては高圧下で測定が行われており、まわりの固体よりも密度が大きくなるため、深部に留まり得ることがわかっている。しかし、この深さで岩石がとけるには2000℃の高温が必要だが、実際には1700℃程度しかない。そこで、東北大の大谷栄治教授らの研究グループは、水を含むと岩石のとけ始める温度が下がることに注目し、高温高圧を岩石にかけてマグマを作り、マグマに含まれる水の量を変えて密度を測定したところ、6.7%の水を含んだ状態が、周辺の岩石と重さが釣り合い、浮上せずにその場にとどまることを見つけた。

【文献】
Sakamaki, T., et al.: Stability of hydrous melt at the base of the Earth's upper mantle. Nature 439: 192-194. (2006) [doi: 10.1038/nature04352]

▽東北大学地球惑星物性学分野 大谷研究室のホームページは下記。
http://www.ganko.tohoku.ac.jp/bussei/


2006/01/21 外では雪が降り積もっている
 外は雪が降っている。夜中は降っていなかったので明け方から降り始めたようだ。午前中の早い時間、自転車で雪の中を移動していると、車が通る道路には雪は積もっていなかった。また、道路と違うところでも所々雪の積もっていないところがあった。そんな場所のそばには植物が生えているので、そのためほんの少しだが他の場所より気温が高いのかも知れない。雪が降っている間は、道路が凍らないので自転車でもあまり滑らないのだが、今日は歩道にある排水溝の蓋の角にタイヤが引っかかり滑って転んでしまった。新潟の天気図を見ると晴れのち曇りと出ていた。雪国では、太平洋岸とは異なり少しほっとしているところなのだろうか。夜には雪が止んだ。


2006/01/21 ダイオキシンを飲み込む細菌
 ダイオキシンの分解能力を持つ細菌「RW1」に、別の細菌が持つ巨大物質を丸のみするスーパーチャンネル(体腔)を移植し、ダイオキシンを早く分解する新たな細菌の生成に、京都大学の村田幸作教授らの研究グループが世界で初めて成功した。
 村田教授らは1995年、分子量が大きな物質でも細胞内に取り込める、口にあたるスーパーチャンネル(体腔)を持つ細菌「A1」を土壌から発見していた。スーパーチャンネルは細胞の膜上にあり外の物質を飲み込む口の役割をしている。そこで、スーパーチャンネルの遺伝子を同属の「RW1」に組み込むと、同じように巨大なスーパーチャンネルが開いた。体腔を移植した「RW1」と通常の「RW1」でダイオキシン類の分解速度を比較すると、移植した方が3分の1から半分の時間で分解した。

【文献】
Aso, Y., et al.: Engineered membrane superchannel improves bioremediation potential of dioxin-degrading bacteria. Nature Biotech. (online: 15 January 2006) [doi: 10.1038/nbt1181]


2006/01/20 メルマガの配信数が急激に伸びている
 今日、メルマガ「果物&健康NEWS」86号が配信されたが、発行部数が7,817部になったと連絡があった。一ヶ月前(12/20)が6,528部だったので差し引き1,289部の伸びである。理由はよく分からないが、こんなに急速に増えたのは初めてである。このまま伸びるとは思えないが、発行部数が1万部を突破するのも近いかもしれない。
 「群像(講談社)」や「文芸ポスト(小学館)」の発行部数が約8千部とのことなので、商業誌並になったと言うことだろうか。2004年の2月末に第1号を発行したのでここまでくるのに2年間かかった。
 「果物&健康NEWS」用宣伝パンフレットを作ったのでお使いいただけると幸いである。A4版PDFファイルをUPしたのでダウンロードして印刷できる。



2006/01/19 無人探査機「スターダスト」のカプセル開封
 アメリカ・航空宇宙局(NASA)は、無人探査機「スターダスト」が地球に持ち帰ったカプセル開封の模様や彗星の塵の写真を公開した。宇宙の塵は「エアロゲル」と呼ばれる物質を詰めた採取器に捕らえられていた。
 「予想を上回る大成功だ。大きなものから小さなものまで、たくさんの塵が確認できる」と実験責任者のブラウンリー教授は述べている。
 カプセルのなかの採取器は金属枠で2cm×4cmの130区画に分けられ、細かい穴が無数にあいたシリカ(二酸化ケイ素)素材のエアロゲルが詰められている。顕微鏡でしか見えない微小サイズも含めると、100万粒以上の塵が捕らえている可能性があるという。

下記のサイトでカプセル開封の模様や宇宙の塵を見ることができる。
http://www.nasa.gov/mission_pages/stardust/main/index.html
研究者の喜びのVサインもお見逃しなく。


2006/01/18 今日はスコットが南極点に到達した日
 今夜は風もなく晴れており、星が無数に見える。1912年(大正元年)のこの日、スコット(Robert Falcon Scott)ら5人が南極点に達した。しかし、スコット隊より21日早くアムンゼン隊が南極点に達していた。
 南極観測船「宗谷」が昭和基地との間を往復していた当時、小学生で夢は南極探検隊員になりたいだった。その頃、スコットの伝記に出会った。そして、アムンゼンではなくスコットに強く惹かれた。スコットが、南極点に向かう間も気象や地質の研究を行っていたとの記述と、そのためにアムンゼンに後れをとったのだとの解説が心の中に残った。漠然とではあるが科学者とは何かを考えた最初のきっかけだったかもしれない。
 その後、ロンドンに行く機会があり、大英博物館で本物のスコットの日記の最後の頁を読んだ。ニュージーランドのオークランドでは、スコットらが南極に建てた小屋のレプリカを訪ねた。レプリカの元となった小屋は今も南極に建っているそうである。機会があれば行ってみたい。
 スコット隊は天候に恵まれず、食料などを保存しておいた小屋まであと18kmの地点で全滅した。

 スコットの日記の最後を記しておこう。

 We shall stick it out to the end, but we are getting weaker, of course, and the end cannot be far. It seems a pity, but I do not think I can write more. Last entry. For God's sake look after our people.
 (我々は最後までがんばるつもりだが、身体が弱りつつある。だから、最後の時も、そう遠くはないだろう。残念だが、これ以上書き続けることができない。最後に、我々の家族のことを頼みます。)


2006/01/17 グレープフルーツで歯肉病予防
 ドイツの研究グループが、グレープフルーツを食べると歯周病を予防できるとイギリス歯科雑誌に報告した。
 今までの研究から血液中のビタミンC濃度が高いと歯周病を予防できることが明らかになっていた。そこで、研究グループは、歯周病に罹患した58人を対象に、グレープフルーツを1日当たり2個、2週間食べてもらったところ血液中のビタミンC含量が増加し、歯牙からの出血が統計的に有意に減少することを見いだした。
 研究者はグレープフルーツを食べた直後に歯を磨かないように忠告している。それは、グレープフルーツは酸性であため、すぐに歯を磨くとエナメル質が浸食される恐れがあるためである。

【文献】
Staudte, H., et al.: Grapefruit consumption improves vitamin C status in periodontitis patients. British Dental J. 199: 213-217. (2005) [doi: 10.1038/sj.bdj.4812613]


2006/01/16 ネコ科動物の進化
 アメリカ国立がん研究所の研究チームは、37種の遺伝情報や化石などを詳細に分析した結果を科学研究雑誌サイエンスに発表した。ネコ科動物は約1080万年前、最初アジアでヒョウ類が分かれた後、約940万年前にアジアのボルネオヤマネコ類が分岐、約850万年前にはアフリカのカラカル類、約800万年前には中南米のオセロット類が分かれ、各大陸に定着した。
 その後、南北の米大陸からユーラシア大陸に戻る動きもあり、最終的に約620万年前にアジアのベンガルヤマネコ類とペットにされるイエネコ類が分かれた。その後、イエネコは約460万年の間で8つの主要な系統に進化した可能性が高いとしている。

【文献】
Johnson, W.E., et al.: The Late Miocene Radiation of Modern Felidae: A Genetic Assessment. Science 311: 73-77. (2006) [DOI: 10.1126/science.1122277]


2006/01/15 DNAとタンパク質の基本成分が宇宙に
 アメリカ航空宇宙局(NASA)の研究グループは、スピッツァー宇宙望遠鏡の観察により、375光年はなれたIRS46と呼ばれる地球型の若い星の周りにDNAとタンパク質を作る基本成分である有機ガスを発見したと報告した。
 IRS46星の周りのガスを赤外線などで分析した結果、有機化合物であるアセチレンとシアン化水素、二酸化炭素が見いだされた。これらのガスは、数十億年前の原始の地球の大気と同じ成分と考えられている。
 また、今までに試験管内でシアン化水素とアセチレンに水を一緒に加えて反応させるとタンパク質の構成成分であるアミノ酸やDNAを構成するアデニンと呼ばれるプリン塩基が作られることが知られている。

【文献】
Lahuis, F., et al.: Hot Organic Molecules toward a Young Low-Mass Star: A Look at Inner Disk Chemistry. Astrophysic. J. lett., 636: 145-148. (2006)


2006/01/14 火星の探検は今も続いている
 火星に着陸してから2年、今も火星を2台の無人探査車は走り続ける。アメリカ航空宇宙局(NASA)の探査車は、当初は3ヵ月程度でその役割を終えると予想されていた。ところが、今も走り続けており、探査車2台の移動距離は合計で12kmを超えた。保証期間をとっくに過ぎた2台の探査車は寿命を超えて持ちこたえている。
 1つ目の探査車、「スピリット」は2004年1月3日(アメリカ時間)に火星に降り立った。次いで「オポチュニティー」も1月24日に着陸した。スピリットが降りたのは火星の赤道の南にある直径約145kmの窪地、グセブ・クレーターで、オポチュニティーは反対側のメリディアニ平原に着陸した。
 それから2年間、スピリットは約6kmを走破し、7万点もの画像を送信した。そのなかには探査車自体を撮影したものや、赤茶けた火星の表面を収めたパノラマ写真などもある。一方、オポチュニティーの走行距離は約6.4km、撮影した画像は5万8千点以上になる。
 オポチュニティーは、はるか昔に火星の表面か表面近くに水があった証拠を見つけた。これは生命が存在する可能性を示唆するものである。また、過去には気候がさらに厳しかったことを示す証拠も見つけた。そのために火星での生命誕生が妨げられた可能性もある。
 オポチュニティーとスピリットの写した火星の画像は下記のサイトで見られる。写真を見ていると月とは異なり、火星は地球によく似ているように思える。そして、写真を拡大してみるとなんだか不思議な感覚になる。
 火星には強風が吹いているとのことであるが、風の音がするのだろうか。一人で火星の表面にいたらどう感じるのだろうか。地球と同じ風景に孤独感を感じないのだろうかなどと想像が広がる。

水のあった証拠を発見したオポチュニティーの画像は下記で見られる。
http://athena.cornell.edu/the_mission/ins_pancam_frommars_opp.html

岩場に着陸したスピリットの画像は下記で見られる。
http://athena.cornell.edu/the_mission/ins_pancam_frommars.html


2006/01/13 肝臓で作られる胆汁酸にやせる効果
 肝臓でつくられ、食事のときに腸に流れ出る胆汁酸が、エネルギーの消費を活発にさせる働きを持っているという研究結果が、イギリス科学誌ネイチャー電子版に発表された。
 脂肪分の多いエサと胆汁酸を一緒にマウスに与えると、胆汁酸を与えないマウスと比べて体重の増加が抑えられた。体の組織を比較すると、褐色脂肪でエネルギーを盛んに消費していた。
 胆汁酸は褐色脂肪細胞の中にある酵素に働きかけるなどして、エネルギー消費などにかかわるホルモンの働きを活発にしていた。人の筋肉の培養細胞で調べると同じ働きが見られた。
 ただし、胆汁酸を人が摂取すると、悪玉コレステロールの値が上がってしまう。

【文献】
Watanabe, M., et a: Bile acids induce energy expenditure by promoting intracellular thyroid hormone activation. Nature (online 08 January 2006) [doi: 10.1038/nature04330]


2006/01/12 農研機構理事長の期待とは逆の結果になる
 午後2時から5時過ぎまで休憩を挟んで農研機構理事長が職員に対して新体制について説明と解説を行った。こうしたことは良いことだと思う。会場のホールはほぼ満席であった。最初に理事長が1時間45分話し、質疑に入って研究管理担当理事が職員の質問に回答したが、この対応がぼけているとの印象が残った。
 理事長は誠実な対応をしていると感じたが残念ながら説得力がなかった。まだ、組織問題は理事長個人の思考段階にあるとの印象で、このコラムで述べてきた問題点が解消できるとはとても思えなかった。新体制を作り上げるためには智慧を出し合う必要があるが、担当があの理事ではそれも仕方ないか。
 理事長は、人事や評価などの管理体制と研究の進行管理を分けることがテーマ別フラット制の最大のメリットと主張しているが、実際はこれがテーマ別フラット制の最大の問題点なのである。テーマ別フラット制を導入した企業はすでにあり、それが失敗に終わっていることをまなぶ必要がある。
 テーマ別フラット制は間違いなく結果主義に陥るとデータは示している。なぜなら、人事と評価と担当する管理者は、研究の進行に責任がないから結果がでたら俺の指導がよかったで、結果がでなかったらお前は何をしていたということになる。
 結果で人を評価していけば何が起こるかというと、結果が出やすいプロジェクトに人は群がるようになり長期戦略は阻害される。このような研究機関の研究員は新規分野を開拓し、諸外国に勝ち、農業を発展させることはできなくなってしまうのである。
 テーマ別フラット制は、残念ながら、理事長の期待とは逆の結果になってしまうということをちゃんと調べれば分かる。


2006/01/11 冥王星の惑星カロンの物理的特性
 アメリカを中心とした国際研究グループ(1)とフランスを中心とした国際研究グループ(2)が、別々に科学研究雑誌ネーチャーに冥王星の惑星カロンの物理的な特性を明らかにした。これまでの計測により、両天体の質量の値は絞り込まれてきたが、半径や密度は不確実なままであった。
 アメリカのグループは、惑星カロンの平均半径は606±8km、密度は1.72±0.15g・cm-3と発表した。また、有意な大気は検出されないとしている。そして、グループは、冥王星に天体が衝突し、吹き飛ばされたちりが集まってカロンができたとする可能性が高いとしている。
 フランスのグループは、惑星カロンの平均半径は 603.6±1.4km、密度は1.71±0.08g ・cm-3とアメリカのグループとほぼ同じ結果を明らかにしている。
 同じデータを用いて別々にかつ同時に、そして同じ雑誌にほぼ同じ内容が発表されたのは珍しいことではないかと思う。

【文献】
1) Gulbis, A.A.S., et al.: Charon's radius and atmospheric constraints from observations of a stellar occultation. Nature 439: 48-51. (2006) [doi: 10.1038/nature04276)
2) Sicardy, B., et al.: Charon's size and an upper limit on its atmosphere from a stellar occultation. Nature 439: 52-54. (2006) [doi: 10.1038/nature04351]


2005/01/10 私たちは食総研と農工研の指導部を支持する
 朝、5時頃から降った雪は午前中で止み、夜には上弦の月が見えた。
 ナポレオン軍とイギリス軍によるワーテルローの戦いにおけるイギリス軍仕官の献身的な戦いかたが歴史に記されているが、どの組織も、その組織を支える中心的な階級がある。
 農業研究の中心を担ってきたのは室長である。室長は、研究の発展を図るとともに、その研究を農業に行かすためのコーディネートを行う職種であり、その機能は有効に働いてきた。この機能がなければ「研究栄えて、農業滅ぶ」となったのではないか。
 食品総合研究所と農業工学研究所の指導者らは、フラット制ではなく、室-部体制を選択するとの情報がある。私たちは、両指導部のこの選択を支持する。フラット制では、室長の担ってきた機能が失われるため、「研究栄えて、農業滅ぶ」が現実となるだろう。


2006/01/09 ビッグサイエンスとスモールサイエンス
 成人の日、風もなく朝から暖かい。日本海側の冬型の気象配置も緩んできたとのことである。研究所の外は穏やかで、時折カラスの鳴き声が聞こえる。
 研究には、多額の予算と多数の研究員を必要とするビッグサイエンスと一人でもできるスモールサイエンスとがある。ビッグサイエンスは、どちらかというと科学の基礎的な解明が進み、アイデアより現場でいかに効率よく研究が行えるかが問われる。代表的な例が、宇宙開発であり、ヒトゲノムやイネゲノムの解析である。一方、スモールサイエンスは、研究者のアイデア、独創に主眼があり、地道な努力が新しい分野を切り開く。
 ノーベル賞の受賞者は、新しい分野を切り開くスモールサイエンスの研究者とその分野を発展させた研究者に授与される。今年の生理・医学賞はヘリコバクター・ピロリ菌を発見したオーストラリアのバリー・マーシャル教授とロビン・ウォーレン名誉教授に授与されたが、これは、常識を打ち破る研究者の独創的なアイデアによるスモールサイエンスの典型的な一例だろう。
 農業研究にも、ビッグサイエンスに属する研究と、スモールサイエンスに属する研究とがあるが、どちらかと言えば、スモールサイエンスの課題の方が多いだろう。このことは、予算の付け方からも分かる。農学系プロジェクトでは1課題当たり数百万円の場合が多く、宇宙開発プロジェクトのような億単位の予算が付くことはまれである。
 研究の発展・進歩には、先端的な研究も、創造的な研究も、長期的な研究も、短期的な研究も必要であり、それらが適当なバランスにあることが重要である。
 ところが導入が計画されているフラット制はそうしたことに配慮することなく、ほぼ一律にチームの人数とテーマが決められていて無理矢理その制度・課題数に合わせようとしている。このような制度原理を優先して研究の実際を軽視したり、制度原理にあわぬからといってスモール研究を排除しては農業研究の発展・進歩は著しく阻害されるだけだろう。


2006/01/08 果物と野菜の摂取で膵臓ガンの予防
 膵臓ガンは致命的なガンの1つである。しかし、この病気の根本原因と防止法についてはほとんど知られていない。そこで、カルフォルニア大学の研究グループは、果物と野菜の摂取と膵臓ガンとの関係を調査した(患者対照研究)。
 1995年から1999年に膵臓ガンに罹患した532人と対照の1,701人について食物の摂取頻度についてのアンケートを行うとともに直接インタビューを行った。
 その結果、果物と野菜を多く摂取すると膵臓ガンが減ることが分かった。摂取量に従って4つのグループに分け、野菜の摂取量が最も多いグループは少ないグループと比較して膵臓ガンに罹患するリスクが55%少なかった。また、果物と果汁の摂取が多いとリスクが28%減少した。さらに、果物と野菜を1日当たり9サービング以上食べている人は、5サービング以下の人より膵臓ガンに罹患するリスクが51%減ることが分かった。これらの結果は、果物と野菜の摂取を増やすと膵臓ガンの予防になることを示している。

【文献】
Chan, J.M., et al.: Vegetable and Fruit Intake and Pancreatic Cancer in a Population-Based Case-Control Study in the San Francisco Bay Area. Cancer Epidemiol. Biomarkers Prev. 14: 2093-2097. (2005)


2006/01/07 排除の論理は研究にとって最悪
 研究は、「なぜ?」を問う学問である。そのため、独創的な発想が不可欠であるが、そうした発想ができる人に奇人や変人が多い。従って、研究を進展させるためにはそうした個性を伸ばすことのできる環境が必要である。
 ところが、上意下達の硬直化した組織では、そういう人が出てきたときに、標準的な指標によって排除するようになるだろう。なぜなら、管理者は、平均的な点数を基に評価しがちであるためである。
 上意下達のフラット制の組織は、能力の低い人を排除するシステムとして考えられているが、同時に、能力が非常に高い人をも排除してしまうシステムであるのだ。独創的発想が不可欠の研究組織に、排除の論理を導入するのは最悪の結果を招く。このことは、斬新な研究領域を切り開いた科学者たちを思い浮かべれば理解できるのではないか。


2006/01/07 糖尿病発症の原因は高脂肪食
 日本では2型糖尿病の発症が多いがその原因はよく分かっていなかった。アメリカ・カルホルニア大学の研究グループが高脂肪食と糖尿病発症との関連を科学雑誌Cellに報告した。ネズミでの研究で、高脂肪食の摂取でインシュリンの生産が抑制されることを示した。
 インスリンはすい臓で作り出されるホルモンで、細胞が血液の中からブドウ糖を取り込んでエネルギーとして利用するのを助ける働きをする。インスリンの作用が不足すると、ブドウ糖を利用できなくなり、血液中の血糖値が高くなり、この状態が継続すると糖尿病と診断される。
 実験では、GnT-4aグルコシルトランスフェラーゼ(GnT-4a)をコードする遺伝子をノックアウトしたネズミの膵臓でインシュリンの生産が中断された。また、高脂肪食を正常なネズミに与えたところGnT-4a酵素レベルが減少し、インシュリンの生産が抑制された。このことから、2型糖尿病の発症には高脂肪食が関係することが分かった。
 この研究は、2型糖尿病の発症のメカニズムを明らかにした重要な論文である。詳しくは、「果物&健康NEWS」(87号、1月27日発行予定:次の次の号)で解説したい。

【文献】
Ohtsubo, S., et al.: Dietary and Genetic Control of Glucose Transporter 2 Glycosylation Promotes Insulin Secretion in Suppressing Diabetes. Cell 123: 1307-1321, (2005) [doi: 10.1016/j.cell.2005.09.041]


2006/01/06 なぜ夜遅くまで仕事をするのか
 なぜ研究者はそれほど夜遅くまで仕事をするのか。それは、仲間と時間・労苦を共にし、果樹農業を自分たちで支えているという自負心があったからだ。「共同体」意識が根強くあった。やる気をおこさせる研究があった。
 今度の上意下達のフラット制には息苦しさを感じる。「働くのにあまり愉快な職場ではなかったね」となりそうである。
 私たちが望むものは「働くことの楽しさ」に集約される。


2006/01/05 私たちの望むものは
 朝は曇っていたが昼過ぎから青空となった。日本海側を中心に雪が大量に降っているとニュースが伝えている。
 正月のニュースで目についたのは社会の二極化に関する報道である。「縦並び社会・格差の現場から:患者になれない」(毎日新聞05/1/3)、「就学援助4年で4割増:給食費など東京・大阪4人に1人」(朝日新聞05/1/3)。これが私たちの望む社会なのだろうか。研究環境もたぶん同じになるだろう。もう一度、私たちの理想とは何かを問い直してみたい。


2006/01/03 若烹小鮮
 今日は晴れたが、少し風もあり寒い。正月も今日で終わりである。
韓国の中央日報は、大学教授195人を対象にアンケート調査を行ったところ2006年の熟語として「若烹小鮮」(大国を治むるは小鮮(しょうせん)を烹(に)るが若し)が選ばれたと報じている(06/1/2)。これは老子の「治大国若烹小鮮」から出た熟語で、小魚を煮炊きするときは箸で突付き回したりフタを開けたりしたら、小魚の身や骨が型崩れし汁も濁ってしまうのと同様に、騒がしく物事を行わないように、との意味が込められているそうである。
 研究組織も同じだろう。研究管理者が闇雲にハッパをかけても長続きしない。そうではなく、まず研究者自身のやる気を引き出す環境をつくることがはるかに効率的な研究組織となるのではないか。


2006/01/01 謹賀新年
 くだもの・科学・健康ジャーナルご愛読ありがとうございます。
 今年もよろしくおねがいします。

 昨夜は星空も見えていたが、今日は朝から曇り空である。そのため、テレビも録画した日の出を写していた。
 今日の天気と同様に明るい希望を見いだせない正月ではあるが、淡々と研究に打ち込んでいきたい。
 さらに、メールマガジン「果物&健康NEWS」の発行部数を1万部以上にできたらと考えている。ホームページのアクセス数もUPしたい。