2006年5月


2006/05/31 ガンに関する正確な情報を引き出せたのはたったの4%
 アメリカ・アリゾナ州フェニックスで開かれた医学図書協会の年次総会(2006.5.19-24)で発表されたミシガン大学ガンセンターの研究によると、ガンセンターを訪れた患者や家族で、インターネットなどから正確な情報を引き出せたのはたったの4%であることが分かった。
 それに対して、専門の司書が手助けした場合、65%の人に対して彼らが知らなかった新しい情報を提供し、残りの30%に対しては、追加情報が提供された。
 このことは、インターネットから正確は医学情報を引き出すためには、専門の知識が必要なことを示している。

上記ニュースはミシガン大学のサイトで読める。
http://www.cancer.med.umich.edu/news/medinfo06.htm

 最近、健康番組「ぴーかんバディ」で取り上げた白インゲンによるダイエット法を試した人が下痢やおう吐を訴えた問題があった。科学的に怪しいダイエット法であるが、番組担当者にそうした認識はあるのだろうか。
 また、番組は、低炭水化物ダイエットを一貫して取り上げているが、科学的データに基づいてその危険性が指摘されていることを知った上で放送しているのだろうか。言い換えれば、そうした危険性を示すデータに対して十分な反論(科学的データ)を用意しているのか疑問がある。
 番組のコンセプトとして「信頼感のある情報取材力は番組の命」を掲げているが、ただ単にインターネットで調べても、ミシガン大学の報告のように、正確な情報にたどり着けないことを知らないのではないかと思わせる。


2006/05/30 News:アメリカの農村の若者の出会い専用サイト
 早寝早起きで健康で裕福であるけれど異性と出会う機会が少ない農村の男女専用の見合いサイト「ファーマーズオンリー・コム(http://farmersonly.com/)」についてReutersが伝えている(06/5/22)。
 米国やカナダの農村部に住む若者らは「都市部の友人らに理解してもらえない価値観が、ここでは共有できる」と、サイトの登場を歓迎している。
 カンザス州の若者は、「いくつかの見合いサイトを試してみたが、話題は高価なコーヒーやアフターファイブのことばかり。田舎の生活のことなど分かってもらえなかった。でも、このサイトをひと目見てこれだと思った。農場や牧場の話を理解し合えるなんて、とても貴重な場だ。」と話している。今はミズーリ州の農村部に住む女性と知り合い、遠距離恋愛を続けているとのこと。
 別の若者は、「子牛が病気になれば、食事の途中でも駆け付ける。そんな生活を分かち合える相手と、ここでは出会うことができる」と語っている。
 サイトは2005年5月、オハイオ州クリーブランドのジェリー・ミラーさんが開設した。現在登録メンバーは1万9000人で55%が女性だという。

 このニュースは、CNN、USA Todayなど多くのメディアが取り上げ伝えている。都市部と農村部の価値観の違いが大きくなり、その違いを理解できなくなっているのはアメリカだけではなく日本も同じである。都市部にない価値観を伝えることが農村について理解を深めるキーポイントかも知れない。高価なコーヒーやアフターファイブにまさる魅力とは何か。そしてその魅力をどう伝えるかを考える必要があるだろう。
 全米の統計によると、1935年に約680万人だった農業人口は、その後減少の一途をたどり、昨年は約210万人に減少した。

上記ニュースは下記のサイトで読める。
http://news.yahoo.com/s/nm/20060522/wr_nm/life_farmers_dating_dc


2006/05/29 一酸化窒素は脳の神経細胞を死滅させる
 孤発性パーキンソン病やアルツハイマー病などによる脳の神経細胞が死滅する仕組みを北海道大学の上原孝らの国際研究チームが発見したと科学研究雑誌Natureに発表した。
 細胞質や小胞体(ER)に存在するストレスタンパク質は細胞の恒常性を維持し、障害に対して保護的な働きをしている。神経変性は、酸化またはニトロソ化ストレスが引き金となって生じることが知られている。そこで、たんぱく質の異常を修復する酵素「PDI(たんぱく質ジスルフィドイソメラーゼ)」に着目し、PDIと一酸化窒素と関係を調査したところ、PDIと一酸化窒素が結合すると、PDIの働きが抑制され異常たんぱく質が増加することを発見した。
 そこで、ラットにパーキンソン病や脳こうそくを人為的に起こし、PDIと一酸化窒素の結合状態を調査した結果、PDIと一酸化窒素が結合すると神経細胞を死滅することを動物実験でも確かめた。
 また、パーキンソン病やアルツハイマー病で亡くなった患者を調べたところ、全11人から一酸化窒素と結合したPDIが検出されたが、循環器病など別の病気で亡くなった患者(6人)の脳からは未検出だった。
 以上のことから脳内で生じる一酸化窒素が正常な酵素に悪影響を及ぼし、有害なたんぱく質を大量合成するために神経細胞が死滅すると考えられた。この発見は、早期発見や治療につながる可能性があり、研究の進展が期待されている。

【文献】
Uehara, T. et al.: S-Nitrosylated protein-disulphide isomerase links protein misfolding to neurodegeneration. Nature 441, 513-517. (2006) [doi: 10.1038/nature04782]


2006/05/28 マグネシウムは死亡率を下げ、銅は上げる
 フランスの研究グループが、マグネシウム、銅、亜鉛のレベルとガンや心臓病などの死亡率との関係すると発表した。パリに住む30-60歳の4035人を18年間の追跡調査から、血清中の銅レベルが高い人は低い人に比べて死亡率が50%、ガンによる死亡率が40%、心臓病による死亡率が30%増加した。マグネシウムのレベルが高いと死亡率と心臓病による死亡率が40%、ガンによる死亡率が40%少なかった。亜鉛が低く、銅が高い場合は死亡率が2.6倍、ガン死亡率が2.7倍増加した。同様に、低い亜鉛と高いマグネシウムでは死亡率、ガン死亡率ともに80%減少した。

 血液中の金属レベルと疾病との関係を調べた疫学調査は少ないので貴重な論文である。また、この研究だけでは、何故、マグネシウムが死亡率を下げるのか分からないので今後の研究の進展に期待したい。

【文献】
Leone, N. et al.: Zinc, Copper, and Magnesium and Risks for All-Cause, Cancer, and Cardiovascular Mortality. Epidemiology. 17: 308-314. (2006)


2006/05/27 科学ジャーナリスト大賞に毎日新聞の元村記者
 優れた科学ジャーナリスト活動を顕彰する「第1回科学ジャーナリスト賞」の受賞者5人が発表された。5人の中から「大賞」に、毎日新聞科学環境部の元村有希子記者が選ばれた。受賞理由は「ブログを含む『理系白書』の報道」である。
 また、毎日新聞大阪本社社会部の大島秀利記者の「アスベスト(石綿)被害と救済に関する報道」、フリーカメラマン、中村梧郎氏の「ベトナム戦争の枯葉剤被害を追及する報道姿勢」、青山学院大教授、福岡伸一氏の「分子生物学者として斬新な視点からBSEを分析し、一般向け科学書にまとめ」、朝日放送アスベスト取材班代表、石高健次氏の「アスベスト問題に取り組み、住民被害の実態と救済を訴えた報道」が受賞した。
 同賞は「日本科学技術ジャーナリスト会議」が、創立10周年を記念して新設。過去1年間の報道や著作、博物館での活動など、科学技術を社会に伝える仕事に対して贈られる。

 新聞、テレビなどの報道で、科学ニュースの枠が少ないように思う。こうした賞を通して正確な科学技術が広く社会に伝わったらと思う。


2006/05/26 HIVの起源はカメルーンのチンパンジー
 エイズウイルス1型(HIV1)は、アフリカ・カメルーンに生息している野生のチンパンジー(Pan troglodytes troglodytes)が起源となっていることを、アメリカ・アラバマ大などの研究チームが科学研究雑誌Scienceに発表した。
 HIV1の起源をめぐっては、遺伝子のよく似たサルエイズウイルス(SIV)がこの地域のチンパンジーから見つかっていることから、これまでもチンパンジー説は有力だった。ただ、生息地域が隔絶されていることや、チンパンジーが絶滅の危機にあるなどから研究は進んでいなかった。
 カメルーン南部の森林10カ所で採取した446匹分のチンパンジーのふんを分析した結果、これまでに見つかっているSIVのなかで、最もHIV1に近いウイルスを見つけた。
 飼育チンパンジーの感染率は低く、野生のチンパンジーの感染実態はよく分かっていなかった。しかし、今回調べたチンパンジーの感染率は30-35%と高率だった。

 この研究のユニークな点は、捕獲の難しいチンパンジーのふんの遺伝子を分析したところである。森林でふんを探す作業は大変だったのではないか。

【文献】
Keele, B. F. et al.: Chimpanzee Reservoirs of Pandemic and Nonpandemic HIV-1. Science Online May 25 (2006) [doi: 10.1126/science.1126531]


2006/05/25 リンゴは心臓病、ガンなどの生活習慣病予防に有効
 リンゴにはフラボノイドが豊富に含まれている。フラボノイドは抗酸化性が強くDNAの損傷を防ぐ働きなどが知られていた。アメリカ・カルホルニア大の研究グループは、人の内皮細胞にリンゴ抽出物を作用させた結果、心臓病やガンなどの生活習慣病を引き起こす腫瘍壊死因子(TNF)による細胞活動を阻害する働きが見いだされた。

【文献】
Davis, P.A. et al.: Effect of Apple Extracts on NF-B Activation in Human Umbilical Vein Endothelial Cells. Exper. Biol. Med.231: 594-598. (2006)


2006/05/24 モモの袋はどこで手にはいるか?
 鹿児島のWさんからモモの袋はどこで手にはいるかとの質問がありました。返事をだしたのですが記入いただいたアドレスが誤っていたため届きませんでしたのでここで回答します。
 おたずねのモモの袋ですが、農業資材を販売している会社やホームセンターなどで手に入ります。また、果実袋のメーカーには小林製袋産業株式会社などがあります。

小林製袋のホームページは下記です。
http://www.k-seitai.co.jp/Profile.html#営業品目
オンラインショッピングで購入できるサイトもありますので検索してみてください。

 モモ専用でなくても袋であれば大丈夫です。新聞紙を使って手作りした袋でも十分に役割を果たします。袋かけは害虫対策、病気対策及び果実の品質向上等(表皮の汚れ等を防ぐ)を目的としています。


2006/05/23 ぜん息患者は、果物とビタミンCの摂取が少ない
 ぜん息患者と健常人それぞれ515人を対象とした症例対照研究から、ぜん息症患者は果物摂取が少なく、ビタミンCとマンガンの摂取量も少ないことが分かったとイギリス国立公衆衛生院の研究グループが発表した。ぜん息患者は果物を1日当たり平均132.1gの摂取であったが、健常人は149.1 gであり、統計的に有意にぜん息患者の摂取量が少ない。

【文献】
Patel, B.D. et al.: Dietary antioxidants and asthma in adults. Thorax 61: 388-393. (2006) [doi: 10.1136/thx.2004.024935]


2006/05/22 グレープフルーツジュースと薬と相互作用のメカニズム
 グレープフルーツは、コレステロールを下げる薬や血圧を下げる薬など特定の医薬品との相互作用することが知られているがその原因はフラボノイドと考えられていた。
 しかし、アメリカ・ノースカロライナ大学の研究チームがグレープフルーツに含まれている成分を詳細に検討した結果、相互作用に関与する成分はフラノクマリン(furanocoumarin)であることを見いだした。

【文献】
Paine, M.F. et al.: A furanocoumarin-free grapefruit juice establishes furanocoumarins as the mediators of the grapefruit juice-felodipine interaction. Am. J. Clin. Nutr. 83: 1097-1105. (2006)


2006/05/21 太るのはコラーゲ分解酵素のため
 脂肪を摂るとなぜ太るのかについてマウスを用いた実験から明らかになった。脂肪細胞は、コラーゲンに囲まれている。そのため、脂肪細胞が膨張していくためには、周辺組織のコラーゲンを分解する必要がある。今回見つけられたコラーゲン分解酵素(MT1-MMP: membrane-anchored metalloproteinase)は、脂肪細胞の周辺にあるコラーゲンを三次元的に分解する。
 本研究は、マウスを用いた研究のため、この酵素がヒトでも同じような働きをもつかどうかは不明であるが、その可能性は高いと予測されている。新しい肥満治療への扉を開くキーではないかと期待されている。

【文献】
Chun, T-H. et al.: A Pericellular Collagenase Directs the 3-Dimensional Development of White Adipose Tissue. Cell 125: 577-591. (2006)


2006/05/20 第37回世界農業者大会ソウルで開催
 韓国・ソウルでの国際農業生産者連盟(IFAP: International Federation of Agricultural Producers)の第37回世界農業者大会は5月13-20日の日程で開催されている。IFAPは世界75カ国、6億人の農業者を代表する組織である。砂漠化防止、世界の食生活改善、世界の食料生産や環境保全に重要な役割を果たしている農業者の社会的、経済的な地位向上などについて議論をしている。


2006/05/19 カモミールとワルファリンの同時使用は危険
 ビタミンK に拮抗し、ビタミンK 依存性凝固因子の産生を抑制して,抗凝血作用を発現する薬剤である抗凝血薬ワルファリンを使用している人は、カモミール製品を使用するべきではないとカナダの医学雑誌に報告された。
 ワファリンを使用している70歳の女性のケースでは、カモミールの紅茶を飲んで、カモミールローション使用後の重篤な内出血になった。カモミールにはクマリン系成分多く含まれているため、相互作用が起きたと考えられている。

【文献】
Segal R. & Pilote, L.: Warfarin interaction with Matricaria chamomilla. CMAJ 174: 1281-1282. (2006)


2006/05/18 彦根の和リンゴ復活へ
 かつて彦根地域で栽培されていたとされる和リンゴの復活を目指す住民グループの栽培が3年目を迎えたと日本農業新聞が伝えている(06/5/13)。2016年が彦根にリンゴが植えられてからちょうど200年目に当たることから、この年に「彦根リンゴ200年祭」開こうと企画しているという。

「彦根りんご復活」の取り組みは下記のサイトで読める。
http://www.pref.shiga.jp/g/nogyo/h17kenkyukai/
fruit/11hikone_apple.pdf



2006/05/17 トライアスロン中でも水分の補給は必要ないとの論文
 トライアスロンでは水分の補給が必要であるとされているが、最新のイギリススポーツ医学雑誌にトライアスロンにおける水分損失にみあう水分の補給は必要ない可能性があるとイギリスのスポーツ医学雑誌報に告された。
 西オーストラリアの鉄人レース(トライアスロン)に参加した10人の男性の内臓などの環境温度に影響されない中核体温と水分減少量についてモニターした。平均年齢は34歳で10時間30分以内でレースを終了した。
 レースは3.8km(2.4マイル)の水泳、180km(112マイル)の自転車と42.2km(26.2マイル)のマラソンで行われた。レース中の気温は平均23.3℃で湿度は訳60%であった。
 トライアスロンの選手の体重は2.3kg(5.7ポンド)減少したが、これは、体重のおよそ3%に当たる。中核体温は、ちょうど1℃増加した。
 以上の結果から、水分が減少しても中核体温の上昇は少ないことから、研究者らは、トライアスロン中でも水分の補給は必要ない可能性がると述べている。
 この報告は、従来のスポーツ医学の考え方と異なることからさらなる検討が必要である。

【文献】
Laursen, P.B. et al.: Core temperature and hydration status during an Ironman triathlon. Br. J. Sports Med. 40: 320-325. (2006) [doi: 10.1136/bjsm.2005.022426]


2006/05/16 アメリカで脳卒中予防ガイドラインが発表される
 アメリカ心臓協会(AHA)と脳卒中協会(ASA)は、脳卒中を予防するための健康的な生活習慣および適切な治療についてのガイドラインを科学研究雑誌「Stroke」のオンライン版で発表した。
 脳卒中のリスクを軽減させるため、次のような対策を示している。果物、野菜、低脂肪の乳製品を多く摂取し、飽和脂肪と総脂肪の摂取を控えること。また、食塩は1日2.3g未満に抑え、カリウムは1日4.7g以上摂取するようにする。
 血液中の総コレステロール値を下げる。体重を減らす(血圧降下につながる)。適度な運動をする(1日最低30分間)。さらに、定期的に(最低年2回)血圧検査を受け、常に血圧を管理する。特に、糖尿病患者は血圧を厳重に管理すること。
 治療を担当する医師に対するガイドラインの提示も行っている。この報告についてはメルマガ「果物&健康NEWS」でさらに取り上げる予定である。

【文献】
Goldstein, L.B. et al.: Primary Prevention of Ischemic Stroke. A Guideline From the American Heart Association/American Stroke Association Stroke Council. Stroke. online May 4 (2006) [doi: 10.1161/01.STR.0000223048.70103.F1]


2006/05/15 バンドウイルカの口笛は名前
 バンドウイルカ(Tursiops truncatus)は、お互いに「名前」を告げて意思を伝え合っていることを、動物コミュニケーションの研究をしているチームが実験観察で確かめた。人間以外の動物で、名前のような「身元情報」を伝え合っている動物はほかにいない。
 バンドウイルカは、自分に特有の「口笛」のようなかん高い声を発し合い、仲間であることを確認している。相手の口笛をまねしたり、飼育下で物体を指し示す新しい口笛を覚えたりするため、口笛は名前として使われているのではないかと考えられていた。
 そこで、研究チームは、単に仲間の声に反応するのか、声が伝える内容に反応するのかを見極めるため、口笛から声の特徴を電気的に取り去り、海中のスピーカーから流した。
 その結果、14頭のうち9頭は、なじみの口笛から作った音に極めて敏感に反応し、スピーカーの方をたびたび振り向いた。このことから声ではなく内容に反応していることがわかり、どのイルカが発しようと口笛は「名前」として使われていると判断できた。

【文献】
Janik, V.M. et al.: Signature whistle shape conveys identity information to bottlenose dolphins. Proc. Natl. Acad. Sci. USA online May 12 (2006) [doi: 10.1073/pnas.0509918103]


2006/05/14 プラナリアの研究で国際学生科学賞受賞
 アメリカ・インディアナ州で開かれた国際学生科学フェア(ISEF)で、埼玉県立浦和第一女子高3年の下山せいらさん(17)が動物学部門のベストカテゴリー賞に次いで1等賞に選ばれた。テーマは「Glycogen Induces Extension of Pharynx During Feeding in Planarians」である。

下記のサイトに表彰者のリストが掲載されている。
http://www.sciserv.org/isef/results/grnd2006.pdf


2006/05/13 平成16年国民健康・栄養調査結果に見る果物摂取状況
 平成16年の国民健康栄養調査によると果物の摂取量は119.2gで、前年に比較して3.6%増加していた。しかし、20~40歳代では77gと依然として少ない状況で、1日当たり果実類を200g以上摂取した人の割合は20.6%となっている。また、果物を食べている人の割合は、63.5%で食べていない人は36.5%であった。
 前年より果物の摂取量が増加したことは朗報であるが、全体的には消費量が少ない状況が続いている。


2006/05/13 平成16年国民健康・栄養調査結果
 厚生労働省から「平成16年国民健康・栄養調査」の結果が発表された。生活習慣の状況については、以下の通りである。
 運動習慣のある者の割合は、20~50歳代男性、20~40歳代女性で低い。年次推移をみると、単年では、ばらつきがあるものの、経年的な傾向としては男女とも総数ではほぼ横ばいであり、比較的若い年齢層で低い傾向が続いている。
 朝食の欠食率は、平成11年以降、全体的に男女とも増加しており、特に男女とも20歳代で最も高く、男性で約3割、女性で約2割であり、20歳代の一人世帯に限った場合は、男性で約7割、女性で約3割であった。
 脂肪からのエネルギー摂取が25%を超えている者の割合は、成人で男性の約4割、女性の約5割であった。
 以上のような結果で、生活習慣の改善は見られていない。

厚生労働省平成16年国民健康・栄養調査結果の概要は下記のサイトで見られる。
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/05/h0508-1a.html


2006/05/12 骨粗しょう症などを抑える環状ペプチドWP9QY
 東京医科歯科大の研究グループは、9つのアミノ酸が環状に結合したペプチドWP9QYが骨粗しょう症などの際に骨が減少する作用も抑えることマウスを使って明らかにした。
 動物の骨は常に形成と破壊が繰り返されているが、健康なときはこのバランスがとれている。しかし、カルシウム不足などになるとバランスが崩れ、骨の破壊が進むことが知られている。
 普通の餌を与えたマウスと、カルシウム量を10分の1にしたマウスで実験した。カルシウムの摂取量を減らしたマウスのすねに占める骨の割合は、実験開始後2日で4.4%まで減少し、正常マウスの9.7%の約半分になった。一方、カルシウムの摂取量を減らしたマウスに環状ペプチドWP9QYを投与したところ、骨の占める割合は10.3%となり、正常マウスとほぼ同じとなった。また、環状ペプチドWP9QYをマウスに大量に投与しても肝臓、腎臓の異常は認められなかった。
 以上の結果より、環状ペプチドWP9QYは骨の量を減少を抑制するため、副作用の少ない骨粗しょう症などの治療薬として期待されている。

【文献】
Aoki, K. et al.: A TNF receptor loop peptide mimic blocks RANK ligand-induced signaling, bone resorption, and bone loss. J. Clin. Invest. Online May 4 (2006) [doi: 10.1172/JCI22513]


2006/05/11 軟骨の石灰化を抑制するタンパク質の特定
 マウスの軟骨にだけ微量に存在しているタンパク質「カーミネリン(Carminerin)」の発現を抑制すると軟骨の石灰化が抑制されることを東大の研究グループが発見した。
 研究グループは、カーミネリンの遺伝子を発現しないようにしたマウスを作製し、軟骨の石灰化と骨の突起の形成を調べた結果、変形性関節炎や老化に伴う軟骨の石灰化が抑制されたが、成長には問題がなかった。
 以上のことから、カーミネリンは軟骨の石灰化に関与する軟骨特異的タンパク質であることが分かった。病的な石灰化は高齢者などで問題となっており、カーミネリンの機能や制御方法を解明出来れば、画期的な治療法につながると期待されている。ただ、現在のところカーミネリンないしは同等のタンパク質は人では発見されていない。

【文献】
Yamada, T. et al.: Carminerin contributes to chondrocyte calcification during endochondral ossification. Nat. Med. Online 7 May (2006) [doi:10.1038/nm1409]


2006/05/09 栽培小麦の歴史はゆっくりと
 シリア、トルコ国境のユーフラテス川沿いで約1万年前に一気に進んだとされる農耕の開始が、10,200年前ごろから3500年以上かけてゆっくりと進んでいたのではないかと報告された。
 小麦栽培発祥の地とされるシリア北部からトルコ南部にかけての4つの遺跡(10,200~6500年前)で出土した小麦を調べた今回の結果と過去に調べられた2つの遺跡(9,300~7,500年前)とから明らかになった。
 小麦を栽培し、収穫後に脱穀すると小穂に人為的な傷跡が残ることに着目して野生種と栽培種を区別して分析した。小穂9844点のうち、傷跡の有無が判別できた804点を分析し、遺跡ごとに比較した。
 新石器革命の時期に当たる10,200年前に食べていた小麦はすべて野生種であった。9250年前になると栽培種が11%になり、7500年前になると36%に増加し、6500年前では65%となった。
 農耕は1万年ほど前、氷河期が終わった後に、再度一時的に寒くなった気候変動によって一気に始まったとされてきた。しかし、今回の結果から小麦の栽培は、時間をかけてゆっくりと浸透していったと考えられる。

【文献】
Tanno, K. and Willcox, G.: How Fast Was Wild Wheat Domesticated? Science 311: 1886. (2006)


2006/05/08 地中海料理がアルツハイマー病予防
 地中海料理(Mediterranean diet)は、アルツハイマー病予防に有効であることが分かった。ニューヨークの2,258人をおよそ4年間に渡って追跡調査したところ、果物、野菜、シリアルを中心にして魚とアルコールを適度に摂取し、乳製品や肉をあまり食べない地中海料理を食べている人は、典型的なアメリカの料理を食べている人と比較して約40%アルツハイマー病の発症率が低かった。

【文献】
Scarmeas, N. et al.: Mediterranean diet and risk for Alzheimer's disease. Ann. Neurology (Online 18 Apr. 2006)


2006/05/07 糖尿病増加の主因は肥満
 アメリカでは糖尿病に罹患している人が増えつづけている。その理由を解明するために、18歳~79歳の人を対象に1997年-2003年の間の変化について調査が行われた。その結果、1997年に比較して2003年の糖尿病の発病率が41%上昇していたことが分かった。また、同時期に肥満とされる人の率も上がっており、糖尿病との関係が統計的に有意であることから、糖尿病増加の主要因は肥満であると結論づけている。

【文献】
Geiss, L.S. et al.: Changes in Incidence of Diabetes in U.S. Adults, 1997-2003. Amer. J. Prev. Med. 30: 371-377. (2006) [doi: 10.1016/j.amepre.2005.12.009]


2006/05/07 メルマガ「果物&健康NEWS」の作り方5
 健康に関するサイトは多数ありますが、メルマガを作るためにそうしたサイトをサーチすることはめったにありません。初期の頃は、調べたこともありましたが、内容を見ると新しい情報は新聞記事などから得たとものに限られていることが分かりました。しかもそのほとんどがコピー&ペーストです。また、こうした新聞記事にコメントを付けているサイトもありますが、科学的に重要なものはほとんどありません。
 わずかですが良いサイトもあります。しかし、そのサイトに行き着くための時間を考えると努力の割に実りが少ないように思えます。


2006/05/06 遅いマラソンランナーは水の飲み過ぎに注意
 2003年ロンドンマラソンで低ナトリウム血症になった14人調査した医師グループが、42.195kmを3時間30分以上で走る遅いランナーは水の飲み過ぎに注意が必要とイギリスの王立医学協会雑誌に報告した。
 「運動時には水分を」は定説だが、低速のランナーは低ナトリウム血症を避けるため1時間当たり500mlの補給で十分であるとしている。ただし、高速ランナーは1時間当たり最大1000ml必要かも知れないと述べている。

【文献】
Goudie, A. M. et al.: Exercise-associated hyponatraemia after a marathon. J. R. Soc. Med. 99: 1-5. (2006)

2006/05/06 メルマガ「果物&健康NEWS」の作り方4
 かなり調べたけれども掲載しなかった最近の記事は、4月14日の「オレンジデー」です。オレンジデーとは、2月14日のバレンタインデー、3月14日のホワイトデーに続き、2人の愛を確かなものにする日として、オレンジまたはオレンジ色のプレゼントを持って相手を訪問する日とされています。
 しかし、外国には、この日をオレンジデーと記載しているサイトはありませんでした。そして、この日が決まったのはある農家がN協会に登録したためと分かりました。この協会に登録するには、1件、5万円の登録料が必要ですが、登録基準や収支報告書などの記載がなく、どんな活動をしているかについての疑問がとけなかったため掲載を見送りました。


2006/05/05 学校に設置できる飲料のガイドラインに合意
 クリントン財団(William J. Clinton Foundation )とアメリカ心臓病学会(American Heart Association)は、アメリカの公立学校に設置する飲料のガイドラインについてアメリカ飲料協会(American Beverage Association: ABA)と合意したとクリントン前米大統領が発表した。
 「これは重要な発表です。アメリカの子供がより健康な状態でいられるのを助ける戦いにおける画期的な前進です。」とクリントン前大統領は述べている。
 科学的根拠に基づくガイドラインの内容は以下の通りである。小中学校では水、100%果汁、牛乳などに限定する。高校では、それらに加えて、ダイエットタイプのソーダ類やスポーツドリンクなど1本当たり100キロカロリーを超えないものを認める。また、アメリカの全学校の75%について2008-2009年に、このガイドラインを実施することとしている。
 アメリカ飲料協会は学校での炭酸飲料販売について昨年、自主規制を打ち出していた。今回の合意はさらに規制を強めるものだが、スーザン・ニーリー(Susan K. Neely)アメリカ飲料協会会長は「カロリー制限という方法は、子どもにバランスよく食べ、もっと運動するよう教えるべきだという私たちの主張に沿い、理にかなっている」と述べている。

合意したガイドラインは下記のサイトで読める。
http://www.clintonfoundation.org/cf-pgm-hs-hk-work1.htm

クリントン財団のプレスリリースは下記サイト
http://www.clintonfoundation.org/050306-nr-cf-hs-hk-usa-
pr-healthy-school-beverage-guidelines-set-for-
united-states-schools.htm


CNNのサイト
http://www.cnn.com/2006/HEALTH/diet.fitness/05/03/
softdrinks.schools.ap/index.html


CNNのビデオサイトでクリントン前大統領の演説を見られる。
http://www.cnn.com/video/player/player.html?url=/
video/health/2006/05/03/sot.clinton.drinks.cnn

(最初の30秒間CMが放映される)

朝日新聞のサイト
http://www.asahi.com/international/update/0504/019.html


2006/05/05 メルマガ「果物&健康NEWS」の作り方3
 記事の作り方を上記の記事(「学校に設置できる飲料のガイドラインに合意」)で説明します。
 最初に朝日新聞のサイトでこのニュースを知りました。この記事にはニュース源が記されていないので独自取材ですが、CNNのサイトを見るとほぼ同じ内容の記事が記載されていました。両方とも掲載されている写真が同じなので記者発表されたのだと考え、クリントン財団(Clinton Foundation)について検索したところ、プレスリリースが見つかりました。
 そこで分かったことは、クリントン財団とアメリカ心臓病学会がアメリカ飲料協会と公立学校に設置する飲料についての科学的根拠に基づくガイドラインに合意したということでした。「科学的根拠に基づくガイドライン」というところが、合意内容の重要な点です。そのため、朝日新聞やCNNと異なるタイトルにしました。
 もう一つ、今回の合意文書がサイトに掲載されていることも分かりました。この点については朝日新聞にもCNNにも記載されていませんが、重要な点です。


2006/05/04 100%ジュースの飲用は健康的な食事と関連している
 アメリカ政府のデータ(National Health and Nutrition Examination Survey (NHANES) data (1999-2002))を解析した結果、100%ジュースの飲用は、健康的な食事と結びついていると実験生物学会2006年学術集会での報告された。2~18歳の子どもにおける調査で、100%果汁飲料を飲む子どもは飲用していない子供と比較して健康的な食事をしており、食物繊維やビタミンC、葉酸、カリウム、マグネシウムなどの栄養素を多く摂取しており、総脂肪や飽和脂肪の摂取が少ないことが分かった。

【文献】
Fulgoni, V. L. et al.: Consumption of 100% juices is not associated with being overweight or risk for being overweight in children. Exper. Biol. 2006 meeting # 139.5 (2006)


2006/05/04 メルマガ「果物&健康NEWS」の作り方2
 特集記事は、メルマガとしては少し長めの文章(800-1200字)となっていますが、正確な情報提供を考えると必要な量だと考えています。テーマはだいたい2~4週間先まで考えていますが、最終的に決めるのはその週のメルマガを発送してからです。
 素材を探すために日常的に見ているのは、オンラインで参照できる新聞(朝日新聞、毎日新聞、共同通信、BBC、CNN、etc)の科学・健康欄やNature などの科学研究雑誌です。この段階に、それほど時間をかけているわけではありません。
 新聞記事などの場合は、記事が見つかってもそのまま取り上げることはなく、必ず原著と呼ばれる基の資料にあたります。その時利用するのが、PabMedとよばれる科学文献検索サイト(PubMedの利用の仕方は本サイトにあります)と科学研究雑誌のホームページです。ここには、アブストラクト(要約)が掲載されています。そこで科学的内容を確認して本欄に文献とともにNEWSとして掲載しています。文献を記載しているのは研究者の利便のためです。
 次に、特集記事を作るためには、全文が掲載されている資料を取り寄せ、もう一度内容を確認します。最後に、その科学文献の背景を調べるのですが、その資料探しと内容の理解に結構時間がかります。なぜなら、まず自分自身が納得できないと読んでいる人はもっと納得できないと思うからです。
 集めるた資料は文章化してストックしますが、その量はおおよそ5000-10,000字くらいになります。最後に、文章を削っていくわけですが、その段階でまた疑問に思うことが出てきます。そのつめに時間がかかると配信担当者に迷惑をかけることになります。


2006/05/03 果物など葉酸の多い食事はすい臓ガンを予防する
 81,922人の男女を調べた研究から果物などから供給される食品に由来する葉酸は、すい臓ガンのリスクを下げることが明らかになったとスエーデンの研究グループが発表した。一方、葉酸のサプリメントの摂取にはこうした効果は明かではなかった。その理由は、葉酸含量の多い果物などの食品を多く摂取しているということは、それだけ長期に渡って葉酸を摂取しているためとしている。また、葉酸のサプリメントの過剰摂取はガン促進の可能性も示唆されている。

【文献】
Larsson, S. C. et al: Folate Intake and Pancreatic Cancer Incidence: A Prospective Study of Swedish Women and Men. J. Nat. Cancer Inst. 98: 407-413. (2006)


2006/05/03 メルマガ「果物&健康NEWS」の作り方1
 今日は憲法記念日です。朝からとても気持ちの良い天気でした。
 メールマガジン「果物&健康NEWS」が100号となりました。最近、その制作過程を聞かれることが多くなったのでデータの収集方法などが参考になるかと思い少し書いてみます。
 メルマガは、多くの方に果物の良さを知ってもらいたいとの願いと、一線の研究者にも信頼されるデータの提示との2つの目的で創刊しました。
 研究者に対しては、特集記事で科学研究雑誌NatureやScienceなどの最新情報を提供しています。こうした科学医学ニュースを出版とほぼ同時に掲載することがあり不思議がられますが、それはオンラインで1週間から数週間早く原著を読むことが出来るためです。特集記事の字数は800字から1200字の範囲に入るようにしています。
 また、果物の良さを知ってもらうために、くだもの健康文化を紹介するために、果物の歌や花便り、レシピなどを掲載しています。どうやってサイトを見つけるかというと次のようにしています。
 例えば、果物の歌の探し方は、最初によく知られた果物の歌を思いだし、日本の歌であれば、題名と作詞、作曲を検索キーワードとしてgoogleやYahooなどで検索します。するとかなり沢山の音楽サイトが見つかります。そうしたら、そのサイト内に限定して、りんごとか、みかんとかで検索すると果物別に多くの曲が見つかります。
 次にすることは、音楽サイトであれば著作権に違反していないか、掲載されている広告に問題はないか、他のページもメルマガで紹介するのにふさわしいかどうかをチェックします。この作業に結構時間がかかり、採用できるケースの方が少ないのが現状です。


2006/05/02 不溶性食物繊維は糖尿病リスクを減らす
 疫学研究から2型糖尿病は食物繊維摂取不足が関係していることが知られている。そこで、ドイツの糖尿病研究者らは、太り過ぎか肥満である女性17人を対象に、全粒粉由来の食物繊維含量を高めたパンを3日間摂取してもらった結果、インスリンの利用効率が統計的に有意に改善されたと科学研究雑誌に報告した。
 この結果は、食品に含まれている不溶性食物繊維を摂取するとインスリンの利用効率が改善されることを示しており、糖尿病の予防に役立つ可能性が示唆される。糖尿病予防のための食物繊維の摂取目標は1日につき20~35gである。

【文献】
Weickert, M.O. et al.: Cereal Fiber Improves Whole-Body Insulin Sensitivity in Overweight and Obese Women. Diabetes Care 29: 775-780. (2006)


2006/05/01 次世代高温耐性新合金
 従来より約100℃高い1200℃前後でも強度を維持する新合金の開発に、東北大の研究グループが成功したと科学研究雑誌Scienceに発表した。
 従来のニッケルベース超合金のものより高温に対する強度が高いコバルトベース超合金を開発した。開発した新合金は、コバルトにアルミニウムとタングステンで、鋳造後に一定温度で再加熱する方法でできた。この結晶は原子同士の結合が特に強く、加熱しても軟らかくならない特性を持ち、合金全体の硬さを維持できる。 次世代高温耐性合金として期待されている。

【文献】
Sato, J. et al.: Cobalt-Base High-Temperature Alloys. Science 312: 90-91. (2006)