2005年11月


2005/11/30 正統と異端
 朝から青空が広がっていた。通勤途中のツツジの葉がえんじ色一色になっている。日が短くなっていて夕方5時にはもう暗い。
 理想的な研究組織とはどのようなものかと考える。正統と異端が同居した組織ではないかと思う。正統とは、愚直に、地道に、たゆまぬ努力で研究を続けることであり、異端とは、ブレークスルーを目指す思い切りのよい研究である。両者がうまくミックスしている研究組織には活力がある。働きたいと思える研究組織とは、それぞれの研究者が、それぞれの能力を生かすことのできる組織であり、かつ、上司の恣意的な抜擢や左遷を防ぐシステムも備えている必要があるだろう。
 こう考えてくると、恣意的な支配を離れて、自立・自尊の立場に立って主体的に研究を行える研究組織は、フラット制ではなく、従来の部室制であることが分かる。フラット制は上意下達の組織であるため異端は排除される。また、上司の恣意的な支配を防ぐシステムを備えていない。さらに、フラット制を支える成果主義は、秘密主義を生み、研究者の働くことの喜びを奪う。


2005/11/30 都道府県別食料自給率
 農林水産省は、各都道府県別にカロリーベース及び生産額ベースの食料自給率について、最新年の数値を試算するとともに、平成10年度以降の推移をとりまとめましたて公表した。
 我が国の食料自給率は、カロリーベースで平成10年度以降16年度まで7年連続で40%と横ばいの水準となり、生産額ベースでも70%前後のほぼ横ばいの水準となっている。平成17年度はカロリーベースで北海道、秋田、山形、青森、岩手で100%を越えているが、東京は1%、大阪2%、神奈川3%と低い。
 地域の食料自給率の公表は、地産地消、食育活動において活用するなど、地域の農業生産や食生活について国民の一人一人が身近な問題として考える契機なることを期待している。

詳しい県別の数値は下記のサイトで読める。
http://www.maff.go.jp/www/press/cont2/20051125press_2b.pdf


2005/11/29 研究者のモチベーションを奪ってどうする
 研究組織をフラット化するという。従って、これまであった○○室長や○○係長という「肩書」がなくなる。今回の制度では、3人に2人の肩書きがなくなる。このことは、単純ではない。「たかが役職」と思っているかも知れないが、それでは済まない。
 これまでマネージメントとして、研究室予算の獲得や人を通して成果を達成する、あるいは、成果を達成できる人を育成する立場から、一転して他人はどうあれ自分自身で成果を出せではすまない。コツコツと研究を続け、年を経るに従ってマネージメントも行いながら職位を一つずつ上がっていくのが日本のシステムである。それを、ある日突然に、今までのシステムは間違いだったはないだろう。
 さらに、こうしたシステムは、日本の風土に根づいているので、その影響は研究組織内にとどまらない。家族も友人も近所の人もその他大勢の人も役職を知っている。ある日突然、○○室長でなくなったら、リストラされたと思われるだろう。社会的地位を失ったと噂されるだろう。子供にどう説明しても分からないだろう。
 研究者にとって最も大切なモチベーションを奪ってどうしようというのだろうか。


2005/11/29 探査機はやぶさ、イトカワから岩石採取
 探査機はやぶさが、小惑星イトカワから岩石採取に成功した。11月26日午前8時40分ごろ、「岩石採取のためのプログラムが正常に終了」と表示した。すると、スタッフやメーカーの担当者ら約50人から「やった」と声が上がり笑顔が広がったとのことである。おめでとう。
 もっともっと報道されてよい日本らしい科学的ニュースだと思う。そしてもっと、開発を担当した研究者の声を私たちに知らせてほしい。

 ただ、今までと少し違うのは宇宙航空研究開発機構(JAXA)がホームページでその成果と興奮を伝えていることである。例えば的川対外協力室長の下記のページからは成功の興奮が伝わってくる。
http://www.isas.jaxa.jp/j/snews/2005/1128.shtml (「はやぶさ」のいちばん長い日)
 探査機はやぶさ運用室からのブログの中の栄養ドリンクが写った写真もいい。できれば人をもっと入れて撮影してほしいが。
http://www.isas.jaxa.jp/home/hayabusa-live/

 そして、小惑星イトカワの素顔に迫る-「はやぶさ」科学的観測の成果-で全容を知ることができる。
http://www.jaxa.jp/news_topics/column/special-4/index_j.html

 科学の進歩は、人を抜きにしては語れない。にもかかわらず、科学的原理だけを示すような「客観的」、「冷静」なニュースが多い。もっと熱いニュースにならないものだろうか。
 探索機はやぶさの着陸前のスタッフの腕組みをしたり歩き回るなど落ち着かない様子や、成功後のピースサインを絵として伝えてほしい。こうした絵は、子供たちに科学のおもしろさを伝える最良の情報である。大人たちが真剣に研究、技術開発を行い、その成果に喜ぶ姿は子供たちに強い印象を残すだろう。


2005/11/28 コラムが沢山更新
 今日は、昨日に続いて小春日和のよい天気であった。アメリカでは、このような天気を「インディアンサマー」、ドイツでは「おばぁちゃんの夏」、ロシアでは「女の夏」、イギリスでは「聖ルカ祭りの夏」というのだそうである。欧米の夏は「快適な陽気」なのでそう呼ぶらしい。
 今日は沢山のコラムが一度に更新された。更新が待たれていた「スロー風土抄」、そして「家庭菜園の果樹」、「今日の川柳」。また、看板の「果物&健康NEWS」である。

追加情報:日本経済新聞夕刊(11/28 8面)に、先日、三越劇場で行われたパネルディスカッションなどの記事が掲載される。


2005/11/27
 青森市は雪ではなかったが、25日の夜は雨が降った。午前の講義には約70人の学生が、午後のセミナーには約100人が参加してくれた。午後のセミナーでは、質問も多く、時間が足りないくらいであった。少しでもリンゴの消費拡大に役立つことを期待している。セミナーの後に、リンゴの新しい品種や新しいリンゴの加工品の試食もあった。また、ラ・プラス青い森は、快適なホテルで朝食も美味しいうえに宿泊代も安い。お勧めできるホテルである。


2005/11/24 次回更新は27日を予定
 今日はこれから東北新幹線で青森市に行く。予報によると今日は雨で、明日は雪、帰る日は雨とのことである。最高気温が8℃前後とのことなので今年はじめてコートを着ていく。
 明日は、9:30-11:00に青森中央短期大学の学生に対して講義。そして、午後1:30-3:00にラ・プラス青い森で保健師、栄養士、給食関係者、幼稚園教諭、一般を対象としたりんごで健康づくりセミナーで講演する。準備はほぼできているが、今日の夜、宿で最終チェックをする予定にしている。
 そのため、本欄の次回更新は日曜日27日になる予定。


2005/11/24 レーザーを使う遺伝子治療法の開発
 レーザーを使う新しいドラッグデリバリーシステムを東京大のグループが開発した。遺伝子を中に閉じこめた微小粒子(高分子でできた粒)を作り、この微粒子を標的細胞に取り込ませたあとで赤色レーザーを当てると、高分子が反応して微粒子に含まれていた遺伝子が標的細胞内へ放出される。
 この方法で、ネズミの目の結膜に遺伝子を送り込み、レーザーを当てたところ、標的細胞の中で遺伝子が働くことを確認した。
 研究者らは、血管に光ファイバーを通せば、体の中でもレーザーを当てられるので、目の病気のほか、体内のがんなどの遺伝子治療にも利用できるとしている。

【文献】
Nishiyama, N., et al.: Light-induced gene transfer from packaged DNA enveloped in a dendrimeric photosensitizer. Nature Material, online 20 Nov. 2005 [doi:10.1038/nmat1524]


2005/11/23 衰退の前兆?
 風もなく静かな祭日である。すっと伸びたすすきの穂と赤や黄色に色づいた木々がひっそりとした晩秋を作り上げている。セイタカワダチソウが枯れ、くすんだ黄土色に変色しているのでほとんど目立たず、すすきの立ち姿が自然と目に入ってくる。朱色から橙色の果実をつける柿も日本の情景である。
 組織や企業が衰退するときには前兆があるそうである。まず最初に、トップが現実よりこうあるはずだという理念を優先するようになり、ミクロな現場の話よりマクロな話を好み、現場の直接情報より整理された間接情報を重視すると危ないとのことである。また、現場より企画部門のほうが上位という雰囲気があり、内部資料作りに割かれる時間が多いと破綻するという。なるほどと納得がいくし、これじゃぁ衰退するだろうと思う。そして何故かフラット制の提案過程を見るとすべて当てはまっているように思えてしまうのだが。


2005/11/23 高脂肪食摂取による動脈閉塞誘発のメカニズムの解明
 高脂肪食を摂取するとなぜ悪玉LDL-コレステロールが増え、動脈閉塞が起きるのかよく分かっていなかったが、ハーバード大学の研究グループが、高脂肪食に含まれている飽和脂肪酸から動脈閉塞の原因となるLDL-コレステロールに変換する分子スイッチを発見した発表した。
 この分子は、肝代謝に関与するPGC-1β(ベータ)で、食物に含まれる飽和脂肪酸が肝臓に達すると、PGC-1βが活性化して生化学反応が開始し肝細胞から動脈を閉塞させるLDL-コレステロールが産生する。
 以上のことから、食事から摂取した飽和脂肪が動脈閉塞を誘発するメカニズムが明らかになったとしている。また、研究者らによると、この発見は自然淘汰の一つの例を示しており、従来ヒトには害でなかったPGC-1βが、寿命が延びたために有害となったのではないかとしている。

【文献】
Lin, J., et al: Hyperlipidemic Effects of Dietary Saturated Fats Mediated through PGC-1β Coactivation of SREBP. Cell 120: 261-273. (2005)


2005/11/22 求心力・魅力があるのかしらん
 リンゴが美味しい。毎日、リンゴ「ふじ」を1個丸ごと食べている。11月22日は長野県リンゴの日だという。長野県の代表的な品種は「ふじ」で、この時期が最盛期であることと11.22が「いいふじ」と読めることから制定されたという。ちなみに青森県は11月5日である。こちらは「いいリンゴの日」と語呂を合せている。
 フラットな組織にするという。フラットな組織にした場合、現場を熟知しているマネージメント層を中抜きするため分権化が進む。従って研究管理者に人を引きつける求心力・魅力が必要となる。組織をフラットにした代表的な企業はソニーであるが、あの井出伸之氏でさえ、「私は、ソニーを作った井深大氏や盛田昭夫氏のようにはいかなかった。求心力の確保が難しかった」と述べている(朝日新聞05/10/16)。ソニーの経営不振の原因は分からないが、組織のフラット化も関係しているのではないか。今回フラット化を提案している研究管理者にその力・魅力があるのかしらん。とんでもないことになりゃぁしないか。


2005/11/22 朝の光で体内時計を調整
 朝の光で全身の体内時計が調整される仕組みを、神戸大大学院のグループがマウスの実験で突き止めた。目で光を受けると、副腎に情報が伝わり、細胞を活性化するステロイドホルモンが分泌されるという。
 人やマウスの体には24時間周期の活動のリズムがあり、ホルモン量や体温などが変化する。このリズムをつくる体内時計が狂うと、睡眠障害や活動意欲の低下などの症状が表れ、ひどくなるとうつになる。通常は朝に光を浴び、体内時計と実際の時間のずれを修正しているが、全身に“朝”という情報がどのように伝わるかは不明だった。
 研究者らは、ステロイドホルモンの一種の副腎皮質ホルモンが24時間周期で増減することに着目し、マウスに30分間光を当てたところ、このホルモンの量が約3倍に増えた。一方、体内時計の本体とされる脳の一部と副腎を結ぶ神経を切ると、光を当てても量は変わらず、光を受けると副腎皮質ホルモンが出て、全身の体内時計が修正されると結論づけた。
【文献】
Ishida A, et al.:Light activates the adrenal gland: Timing of gene expression and glucocorticoid release. Cell Metab. 2: 297-307. (2005)


2005/11/21 意志形成への参加が不可欠
 朝夕がとても寒くなった。天気予報によると例年より寒いそうだ。研究用に栽培しているブルーベリーの葉が真っ赤に色づき華やかである。今日の電話で青森市では雪が降っているとのことであった。24-26日に青森市のラ・プラス青い森で「リンゴの機能性について」講演する予定であるが、寒さに対する準備をしていかなくてはと考えている。
 研究所の組織改変が提案されたが問題点が多い。その一つは、議論を重ねて意志を形成するという長い研究所の歴史を無視し、意志形成過程を秘密裏に行ったことだろう。研究環境をよりよくするための組織再編などでは意志形成への参加が不可欠である。研究者個々人の意志が無視された組織では自分の頭で考えるという作業が放棄される。そうなるとやがて、研究所に対する帰属意識が失われ、研究所は弱体化し、システムは崩壊していくだろう。


2005/11/21 ガンのリスク因子
 2001年、世界ではガンにより700万人が死亡している。このうち、避けることのできる9つの危険因子での死者数は2,430,000人で全体の35%であった。どの国も、喫煙、アルコール、低い果物と野菜がガンによる死亡のリスクであったが、高所得国ではこのほかに、太り過ぎ、肥満がリスク因子であった。

【文献】
Danaei, G., et al.:Causes of cancer in the world: comparative risk assessment of nine behavioural and environmental risk factors. Lancet, 366: 1784-1793. [DOI:10.1016/S0140-6736(05)67725-2] (2005)

2005/11/20 東京国際女子マラソン
 東京国際女子マラソンで高橋尚子が優勝した。優勝インタビューがよかった。「一度は陸上をやめようと思ったが、ここに帰ってきて良かったと思った、楽しい42キロだった」と語った。2年間の苦労が忍ばれた。小出監督が笑顔で右手の握り拳を何度も上げていたのが印象的である。北京オリンピックまでにはまだ3年以上あるので、そこで活躍できるかどうか分からないが今日の優勝はそれとは関係なくすばらしい。感動を与えたという意味ではシドニーオリンピック優勝より上ではないかと思う。
 外は穏やかな天気であった。信号機のある交差点をいつもなら直進するのだが、今日は右に曲がってみた。少し行くと柿の実がたわわに生っていた。柿の実を見ると晩秋を思う。


2005/11/20 老いは鋭敏な精神の障壁ではない
 老いるということは鋭敏な精神の障害ではないが、たぶん若いときの記憶方法と異なっているのではないかとジョーンズ・ホプキンス大学の科学者ら示唆している。
 研究者らは、老いたラットと、若いラットを用いて実験を行った結果、老いたラットは、若いラットと異なった方法でものを覚えていることを発見した。もしこのことが人にも当てはまるのであれば、加齢に従って失われる記憶の喪失を予防することができるかもかもしれないと研究者らは述べている。
 実験では、様々なテストに対して鋭敏に反応する2歳の老いたネズミと、新しいことを学ぶ力の衰えた老いたネズミ、6カ月の若いネズミの脳を比較した。
 記憶など情報伝達に関与するシナプス接合部に研究者らは注目して研究を行った。神経細胞の間には微細な隙間があり、この間を神経伝達物質が移動し、脳へ情報を登録・保存し記憶を形成する。
 新しいことを学ぶ力の弱い老いたラットは、シナプス接合部の連絡・調整する能力が失われていた。一方、鋭敏な老いたラットは若いラットと比較してシナプス接合部は少なかったが、シナプス接合部の連絡・調整能力は維持されていることから、情報の通りやすさを示す長期増強(long-term potentiation)は年齢とは独立していることが分かった。
 以上のことから、鋭敏なラットは、加齢によってシナプスは減少していくが、記憶・学習などと関係する能力は高いことが分かった。

【文献】
Lee, H-K., et al.: NMDA receptor-independent long-term depression correlates with successful aging in rats. Nature Neuroscience, online 13 Nov. 2005; [doi:10.1038/nn1586] (2005)


2005/11/19 取材はきちんと
 少し早い昼食をとり家を出ようとドアを押すが開かなかった。強い風に押されていつもの力ではドアが開かなかった。向かい風だと自転車がなかなか進まない。特に、筑波山から吹く風がまともに当たる両側が田んぼのところはペダルをこぐのがきつい。
 お昼の健康番組でりんごを取り上げてくれた(りんごパワーを発揮させるひと工夫と食べ方:2005年11月15日火曜日放送)。その中で、私たちの研究を2つ紹介してもらったが、りんごでビタミンC が増えるとした説明の一部に誤りがあったので訂正を申し入れたら、ビタミンCに関する部分(ポイント4)すべてが削除された。誤解を受けると困るのでここで間違っている部分について書いておきたい。りんごを食べるとビタミンCが増えたのは間違いない実験データであるが、その理由を、番組のフリップではリンゴペクチンによって増えるとしているがこの部分は確認されていないので削除をお願いした。ところが、このフリップすべて削除されてしまった。このことから実験そのものが誤りであると誤解しないでもらいたい。りんごを食べるとビタミンCが増えるのは、りんごにはビタミンCの吸収を助ける成分が含まれているためであると考えている。
 りんごを番組で紹介してもらえるのは消費拡大に有効なので協力したいが取材はなかった。少しでも私たちに取材してもらえればこうした間違いは起きなかったのではないかと思う。


2005/11/18 北風と太陽
 今日も良く晴れ渡った日である。通勤に自転車を使っているが、おおざっぱな方向で言えば南から北へ向かって走る。昨日と同じで寒い。でも20分ほど走ると日に当たった背中が暖かくなっているのを感じる。「北風と太陽」を思い出す。
 研究には競争はつきものである。だから競争させると考えているとしたら研究を知らない人だろう。研究には競争も大事だが、協調も大事なのである。研究競争だけを強調すると自分の業績を守るために他人には情報を教えない秘密主義が横行するようになると科学の歴史は教えている。しかし、秘密主義ではたいした成果にはならず研究は行き詰まることも歴史的に明らかになっている。そのため、研究者は、学会などで最先端の情報を公開してディスカッションし、研究を深めたり、領域を広げたりしている。それに加えて研究を発展させるために大事なのは、研究に直接関わっている人も、関わってない人も「全員で研究している」という一体感である。
 どうも、最近の研究管理者は、北風ばかりを考えているようである。当たり前のように毎日、日が差しているので「人には太陽が必要」なことを忘れているようだ。


2005/11/18 インスリン欠乏とアルツハイマー病
 アルツハイマー病の発生機序の解明と治療法の開発について、アメリカ・ブラウン大学のMonteらは、インスリンが膵臓だけではなく脳内でも産生され、アルツハイマー病患者では脳内のインスリン産生能が障害されていると発表した。
 ラットを用いた実験で脳のいくつかの領域でインスリンが産生されているのを発見、またインスリンの産生低下による脳神経細胞の機能低下を認めた。さらにアルツハイマー病で死亡した患者の脳組織を検討した結果、インスリン産生量の著しい低下と、インスリン受容体の減少を発見した。
 Monteらは、インスリンは脳細胞機能の維持にきわめて重要であり、不足するかインスリン応答性が低下すると、ニューロンの機能が阻害されてニューロン死を引き起こすと述べている。
 そのため、脳内インスリンの代替物質の投与や、インスリン受容体の再活性化によるアルツハイマー病の治療法につながるとしている。

【文献】
Steen, E., et al.: Impaired insulin and insulin-like growth factor expression and signaling mechanisms in Alzheimer’s disease---is this type 3 diabetes? J. Alzheimer's Disease. 7: 63-80. (2005)


2005/11/17 西の白い月と東の黄色い月
 朝、西の雨戸を開けたら真正面に白い丸い月があった。ちょうどその時、近くの寺でならす鐘がなった。ちょっとした予期しない出来事に心でほくそ笑んだ。雲ひとつない日であったが寒かった。
 今週のメールマガジン「果物&健康NEWS」を書き終えた。特集は、老化を防ぐホルモン「クロトー」の発見である。黒尾誠氏が発見したことと、科学雑誌JBCの最新号で発表された老化予防のメカニズムが、食生活改善による生活習慣病予防のメカニズムと結びついたので取り上げた。
 日本農業新聞を見ていたらミカンの価格が低迷していると出ていた。ミカンを今まで以上に、少しでも多く食べてもらいたいと思う。そのため、メルマガの来週号ではミカンの健康効果について紹介したいと考えている。
 夕方、外に出てみたら東の空に大きな黄色い月が出ていた。天体の普通の動きなのだろうが不思議を感じた。


2005/11/17 不適切な食事で毎年60億ポンドの損失:イギリス
 イギリス政府は、不適切な食事のために医療費を毎年60億ポンド余分に支出していると、食生活に起因している病気と費用との関係を調査した研究から明らかになった。
 世界保健機構が収集したデータを用いて、食習慣と関係する心血管疾患、ガン、糖尿病について調査したところ、これらの疾病の37%は不適切な食事に起因していることが分かった。一方、イギリスにおける2002年の心血管疾患、ガン、糖尿病の医療費は180億ポンドであった。そのため、不適切な食習慣による病気のために支出している医療費をおよそ3分の1とすると年に60億ポンド余分に支出していると見込まれた。このコストは、交通事故のコストの二倍、喫煙のコストの3倍以上にあたる。
 食習慣に関連する病気のコストは喫煙のコストより高いことから、食習慣に対する対策を政府の健康施策の目標とする必要があると研究者らは述べている。

【文献】
Rayner, M., et al.: The burden of food related ill health in the UK. J. Epid. Com. Health, 59:1054-1057. [doi:10.1136/jech.2005.036491] (2005)


2005/11/16 「あきらめない」と「まいっか」
 うす絹のような白い雲はあるが空は青く高い。日の光の中にいると暖かく、穏やかな日だったので少し歩いた。研究で凄い力を発揮するのは「あきらめない」気持ちだろうと思う。もうちょっと詰めたらもっとよくなると、どこまでもしぶとく最善尽くすことだろう。「まいっか」と途中でやめてしまっては研究はそれなりになってしまうと感じている。


2005/11/16 台湾、果実の輸入禁止へ
 台湾政府が来年2月以降、モモシンクイガが発生している日本、中国、北朝鮮、韓国、ロシアから、果実など10品目の輸入を禁止すると公示したと農林水産省が発表した。農林水産省は、日本から輸出実績のあるリンゴや梨、桃など6品目の輸出が継続できるよう、必要な検疫条件などを調整している。
 台湾が輸入禁止をするのはリンゴや梨のほか、桃、ニホンスモモ、セイヨウスモモ、アンズ、ナツメなど。

農林水産省のプレスリリースは下記のサイトで読める。
http://www.maff.go.jp/www/press/cont2/20051114press_3.html


2005/11/15 Stay Hungry,Stay Foolish
 朝、小雨が降っていたのでカッパを着て家を出た。カッパの色は白ぽいグレーだが、この色を選んだのには理由がある。雨の夜、黒っぽい色で自転車に乗るのは危険なためだ。通勤途中で雨はあがった。
 アップルコンピュータのS・ジョブスがスタンフォード大学で行ったスピーチが話題となっている。「Stay Hungry,Stay Foolish」。なかなか含蓄のある言葉である。勉強して、賢くなるだけではだめで、自分が描いた夢に向かってコツコツとやろうという意味なのだろう。そうすれば、人生が楽しくなるし、納得できる。


2005/11/15 レスベラトロールでアルツハイマー病予防
 いくつかの細胞培養系でを用いて実験を行った結果、ブドウなどに含まれているレスベラトロールが、アルツハイマー病を引き起こすと考えられているβ-アミロイドペプチドの分解を促進し、結果として脳内のβ-アミロイドペプチドのレベルを下げることが分かった。

【文献】
Marambaud, P., et al.: Resveratrol promotes clearance of Alzheimer's disease amyloid-beta peptides. J. Biol. Chem. 280: 37377-82. (2005)


2005/11/14 佐藤優氏の文章は一級品
 雲が低いためか、研究所の隣りを走る国道408号線の車の音が聞こえる。夜になると風が出てきた。寒くなった。よながに雑誌「世界」(11月号)に掲載された佐藤優氏の文章を読んだが一級品である。論理的で、読みやすく、理解が容易である。恐らく、その才能に嫉妬した官僚が沢山いただろうと推される。「政策を国民に納得させるために、職業としてワイドショウのコメンテーターが生まれてきた」との指摘は正鵠を得ていると思う。


2005/11/14 休暇をとる女性は結婚に満足しており、精神状態もよい
 アメリカ・ウィスコンシン州で行われた研究によると、1年に2回以上休暇を取った女性は、2年間で一度以下しか休暇をとらなかった女性と比較して、うつ病、精神的緊張感が低いことが分かった。さらに、休暇の頻度が高くなるに従って、結婚への満足が高くなることも見いだされた。
 以上のことから、研究者らは、休暇を取ることは個人の精神状態の改善され、生活の質が向上することから仕事の能率が高くなるだろうとしている。

【文献】
Cbikani, V., et al.: Vacations Improve Mental Health Among Rural Women: The Wisconsin Rural Women’s Health Study view article. Wisconshin Med. J. 104: 20-23. (2005)


2005/11/13 必要なのは数字じゃない
 昨日ほどすっきりしていないが、今日も晴れ。少し雲が多い。ピーー、ピーと鳥が鳴いているが、先月までのように他の鳥と鳴き声が重なることはない。虫の鳴く声も聞こえない。風もないので静かである。
 最近は数字がすべてのように語られているが本当だろうか。例えば、スポーツ選手の年俸。例えば、研究者の論文数、受賞数などなど。
 スポーツ選手は金のために試合に出ているのだろうか。研究者は、金のために夜を徹して実験をしているのだろうか。そうではなく、自分の運命を切り開きたいと考えているのではないだろうか。
 資本の都合で介入するとき、その根拠に数字が使われる。しかしこれは、愚かな行為である。例えば、大金をつぎ込んだチームが無様な負け方をしている一方で、チームワークの良い貧乏チームが日本一になったりする。
 スポーツ選手や研究者は、そのチーム、その研究所の未来の姿、ビジョンを見ている。だから、年俸や論文数で介入しても一生懸命にはならない。むしろそれなりになってしまうだろう。人間は感情の生き物であり、スポーツや研究などは人間がやるものだということを、どこかで忘れてしまっているように感じている。


2005/11/13 禁煙をもたらすニコチンワクチン
 アメリカ・ボルチモアで開かれた米国がん学会(American Association for Cancer Research: AACR)の招待講演で、NicVAX(nicotime vaccine)と呼ばれるニコチンワクチンの安全性および有効性を強く裏づける成績が報告された。
 アメリカ・米ミネソタ大学のHatsukami教授は、NicVAXは臨床試験に移行するのに十分な効果を発揮しており、われわれの研究だけではなく、他の研究でもそのことが確認されていると述べた。
 ニコチンワクチンは、体内の免疫系を刺激して抗体を産生させ、ニコチン分子に接着する。動物での研究では、抗体が接着したニコチンは分子量が大きくなり血液・脳関門を通過することができないため、ニコチンが脳内に送達するまでの時間が延長し、脳内に達する量も低下することが明らかになった。
 喫煙者68例を用量が異なるワクチン投与群およびプラセボ(偽薬)投与群に無作為に割り付けて評価した結果、ワクチン被験者の38%が30日間の禁煙に成功した。ワクチンの用量が高いほど抗体の反応は良好であり、 30日間禁煙率は最高用量投与群が最も高かった。
 副作用として一部の被験者に、関節痛および圧痛、頭痛、疲労感、筋肉痛が報告されたが、そのほとんどが数日で改善をみた。ワクチン投与群とプラセボ投与群との間に、離脱症状発症の差は認められなかった。
 Hatsukami教授は「禁煙を補助するという点では、有力なワクチンであると思われる」との見解を示しているが、ワクチンの有効性がどのくらい継続するか、追加投与の必要性、喫煙習慣が復活する可能性など、まだ、いくつかの課題が残されているという。

【文献】
Hatsukami, D.K., et al.: Nicotine immunization is a novel treatment that targets the drug. Frontiers in Cancer Prevention Research. Oct. 30-Nov. 2, 2005. Baltimore, MD. U.S.A. Abstracts p205-206. (2005)


2005/11/12 コツコツと
 雨が上がり、青空となった。少し冷たいが爽やかな風が吹いている。葉が黄色く変わった研究所の周りに植えられた木々がサァ-サァ-と揺れている。ひと気のない部屋に、コツコツとしかできない自分がいる。目先の数字や派手さにとらわれずコツコツと努力を積み上げていけば、たまにはいいこともあるだろうと考えている。


2005/11/12 古代ワニの化石発見
 肉食恐竜を思わせるずんぐり型の頭と大きな歯を持つ珍しい古代ワニの一種が、ほぼ完全な頭骨と下あごの化石が、アルゼンチンの約1億4000万年前の地層で見つかったと科学雑誌サイエンスが伝えている。はるか昔に多様な形態のワニ類が栄えたことを示す証拠という。
 ダコサウルス・アンジニエンシス(Dakosaurus andiniensis )と呼ばれる絶滅した水生のワニの一種で、これまではわずかな化石しか見つかっていなかった。
 頭骨は長さ約80cm、歯は大きいもので約10cmもあり、全身は4m近くあったと推定される。現在のワニの頭部は、長い口に歯がぎっしりと生え、小魚を捕まえるのに適した構造をしているという。

頭部の化石は下記のサイトで見られる。
http://www.sciencemag.org/sciencexpress/recent.shtml

【文献】
Gasparini, Z. et al.: An Unusual Marine Crocodyliform from the Jurassic-Cretaceous Boundary of Patagonia. Science, online November [doi: 10 2005; 10.1126/science.1120803]


2005/11/11 冬の到来
 朝は霧で明けた。通勤途中にある川の周辺は濃い霧に包まれており、自転車の先がほとんど見えなかった。北海道に続いて東北地方でも初雪があったとの便りがあったが、いよいよ冬の到来である。冬は嫌いではない。関東地方では晴れの日が多いためだからかも知れない。静寂で、月明かりに照らされた冬の夜道も好きな情景である。


2005/11/11  うがいで風邪が4割減
 水でうがいすると、しない場合に比べ風邪になるのを4割近く抑える効果があるとの調査結果を京都大の川村孝教授らが発表した。世界で初の無作為化試験とのこと。水道水に含まれる微量の塩素の殺菌効果や、口をすすぎ病原体を吐き出した可能性が考えられるという。一方、ヨード液を使ったうがい薬には、予防効果は確認できなかった。
 川村教授らは、18-65歳の男女計387人に実験に参加してもらい、(1)1日3回以上水うがいをする、(2)1日3回以上薬を使ってうがいする、(3)うがいしない、の3グループに分けて2003年12月から2004年3月にかけ、1人について2カ月追跡調査。
 その結果、1カ月に100人のうち何人が風邪になったかに換算すると、それぞれ17.0人、23.6人、26.4人だった。統計処理を行った結果、水うがいをした場合の発症確率はうがいをしない場合に比べて40%低下したが、ヨード液うがいでは12%の低下にとどまり、統計学的に有意ではなかった。

下記の京都大学・保健管理センターのサイトで概略が読める。
http://www.kyoto-u.ac.jp/health/006.htm

【文献】
Satomura, K., et al.: Prevention of Upper Respiratory Tract Infections by Gargling: A Randomized Trial. Amer. J. Prevent. Med. 29: 302-307. (2005)


2005/11/10 老化制御タンパク質クロトーは活性酵素を減少させる
 黒尾誠(アメリカ・テキサス大学助教授)らが発見したクロトー(Klotho)は老化抑制ホルモンである。生命の糸を紡ぐギリシャ神話の女神の名前に因んで名付けられたクロトータンパク質をネズミに過剰に発現させると寿命が延びたことは本欄でも紹介した。
 今回、培養細胞とクロトー遺伝子を導入マウスの両方を用いて、クロトーが酸化的障害を防止することが見いだされた。
 DNAや脂肪、タンパク質などが酸化を受けると細胞の機能が劣化し、老化すると考えられている。そのため、酸化を誘導する活性酸素の過剰生産を防ぐことにより老化は抑制できると考えられる。
 クロトータンパク質は、マンガン・スーパーオキシド・ジスムターゼの発現を誘導するFoxOと呼ばれる転写因子を活性化することが今回発見された。マンガン・スーパーオキシド・ジスムターゼは、活性酸素であるスーパーオキシド・ラジカルを、それほど有害ではない過酸化水素(H2O2)に変換する酵素で、フリーラジカルの過剰生産による酸化ストレスの増加を防ぐ作用がある。
 この結果は、クロトーが老化を抑制し、寿命を延ばすとする理論を裏付ける新しい証拠である。

【文献】
Yamamoto, M., et al.: Regulation of Oxidative Stress by the Anti-aging Hormone Klotho. J. Biol. Chem. 280: 38029-38034. (2005) [doi: 10.1074/jbc.M509039200]

▽ クロトーが老化を制御していると考えられる証拠が次々と出てきている。今回の発見で、従来の活性酸素が老化の要因とする説をも説明できる。このまま行けば、ノーベル賞も期待できる。


2005/11/09 ボランティア試験
 今日はボランティア試験の血液採取日で朝からどたばたしていた。つくば市の松代にある「さとうクリニック」の佐藤宏一先生に血液の採取をお願いしているが本当にありがたい。あと2回、血液採取があるが、その結果が果物を食べると健康によいことを示す証拠となることを期待している。
 朝から天気が良かった。夜になって研究棟の屋上に上ってみた。ひんやりとした空気と静かな雲ひとつない夜空が広がっていた。ひときわ輝いている星は火星だろうか。地球に大接近中という。


2005/11/09 マウスのオスの求愛行動
 オスのマウスは、メスに反応してラブソングを歌っているとアメリカ・ワシントン大の研究チームが発表した。人間の耳では聞き取れない高周波の音声を低くして再生したところ、一定のパターンがあることが分かった。
 これまでの研究で、オスのマウスが高周波の音を出すことは広く知られてたが、その詳細は明らかになっていなかった。そこで、この音声を分析したところ、小鳥によく似た「歌声」になっているとの結論に達した。
 研究チームは、メスが放出する化学物質にオスの脳がどう反応するかを研究していた。最初、オスが発する音声をコンピューター上で画像に変換したがよく分からなかった。そこで、この音声をテープに録音し、4オクターブ下げて再生してみたところ、単なる音の羅列ではなく、(1)音節がはっきり分かれている(2)同じパターンが繰り返し現れるなど、歌としての要件を満たしていることが明らかになった。
 この発見は、研究者にとっても予想外の結果で、「驚き、喜んでいる」とのこと。

【文献】
Holy TE, Guo Z (2005) Ultrasonic Songs of Male Mice. PLoS Biol 3(12): e386 [DOI: 10.1371/journal.pbio.0030386]


2005/11/08 反復動作が疲労感、抑うつ症状の引き金に
 同じ動作を長時間繰り返すと神経から放出されるたんぱく質が、疲労感や抑うつ症状を引き起こすことが、アメリカ・テンプル大での研究で明らかになった。
 マウスに前脚の関節を使った反復作業をさせ続けると、約3週間後から、負担のかかっている神経細胞が「サイトカイン」と呼ばれるたんぱく質を大量に放出する。この時点で関節部分に痛みはないとみられるが、マウスは次第に作業の手を抜き始める。血中のサイトカインの一部が脳へ回り、けん怠感などを引き起こしているためと推定している。5-8週間たつと、細胞が作り出すサイトカインの量はピークに達し、マウスは作業の合間に横たわったり、眠ったりするようになる。

 同様の現象は人間の体内でも起こり得るとしている。反復作業を続けているうちに、「どことなく体調が悪い」、「仕事の能率が上がらない」、「憂うつな気分になる」などの症状が現れる可能性があるという。研究チームは「サイトカインが体を守るための合図を発しているととらえるべきで、けん怠感などの症状により、神経の損傷がそれ以上悪化しないよう、休養が必要だと訴えているのだ」と説明している。

【文献】
Al-Shattia, T., et al.: Increase in inflammatory cytokines in median nerves in a rat model of repetitive motion injury. J. Neuroimmunology, 167: 13-22. (2005) [doi: 10.1016/j.jneuroim.2005.06.013]


2005/11/08 リンゴはそのままでも美味しいが料理にも合う
 「若鶏とリンゴのシードル煮込み」、「ホタテ貝とリンゴのキッシュ」の作り方を毎日新聞が載せている(05/11/4)。魚料理を引き立たせるドレッシング「赤いリンゴのビネグレットソース」もチャンスがあれば挑戦したい。
記事は下記のサイトで読める。
http://www.mainichi-msn.co.jp/kurashi/shoku/news/
20051104ddm013100107000c.html



2005/11/07  一緒に食事が大切とする母親の子供は肥満が少ない
 3795人の子供たちを調べた結果、母親が、子供と一緒に食べることが大切であると考えている母親の子供には肥満が少ないとオーストラリアの研究者が発表した。 78%の母親は1日に1回は家族と食事をしていると回答したが、43%の母親は、子供と一緒に食べることが重要であると思っていなかった。食事を一緒に食べることが重要ではないと思っている家族の子供は、肥満になるリスクが27%高いことが分かった。
 一方、何回一緒に食べたかとの間には統計的に有意な相関は認められなかった。そのため、家族が一緒に食事することが重要であると思っている母親の子供に肥満が少ないのは、間食せず、健康的な食習慣が身に付くためではないかとしている。

【文献】
Mamun, A.A., et al.: Positive maternal attitude to the family eating together decreases the risk of adolescent overweight. Obesity Research, 13, 1422-1430. (2005)


2005/11/07 柿が旬で美味しい
 若者に柿を食べてもらおうと、新潟県佐渡市の「おけさ柿」の応援歌ができたと日本農業新聞が伝えている(05/11/04)。女の子2人組の「カキCHU(かきっちゅ)」が歌っている。「カキクケカキクケ(柿食うけ)おけさ柿」とアップテンポの曲だそうである。
 島根県特産の西条柿を使った「あんぽ柿」の加工が最盛期で(05/10/27)、鹿児島県さつま町では温泉の湯を利用した柿の“あおし(脱渋)”が始まったとのこと(05/10/30)。また、毎日新聞(05/11/04)では食卓の一品として「柿とカブのサラダ」を紹介している。柿の美味しい季節である。


2005/11/06 仕事上のストレスは心血管疾患の危険性を高める
 仕事上のストレスが、動脈の炎症度を高め心臓発作などに結びつきやすいことが、ベルギー・ゲント大の研究から明らかになった。
 男性の労働者892人を対象にアンケートによる仕事の心理的ストレスなどを評価するとともに、ストレスを現すバイオマーカーとして、血漿フィブリノゲン、C反応性蛋白質、血清アミロイドA蛋白質の値を比較検討した。
 その結果、仕事上のストレスを感じている男性は、心臓発作など心血管疾患に関与する血液凝固因子の血漿フィブリノゲン値が高値を示すことがわかった。しかし、C反応性蛋白質や血清アミロイドA蛋白質と仕事によるストレスとの間に関連は認められず、また年齢、学歴、職種、肥満指数(BMI)、喫煙の有無などの条件による差は認められなかった。

【文献】Clays. E., et al.: Associations between dimensions of job stress and biomarkers of inflammation and infection. J. Occup. Environ. Med. 47: 878-883. (2005)


2005/11/05 果物、野菜、木の実、種子だけではダメ
 「常識破りの超健康革命」(松田麻美子)では、「果物、野菜、木の実、種子だけ」で十分としている。いやいや、本書の内容からすればこれだけにすべきだと述べている。
 言い換えると、動物性食品を一切口にせず、植物性食品だけにすべきであるとしている。ところがこれは、科学的には大間違いで、危険ですらある。
 こうした動物由来の食品を全く食べない人は、ビタミンB12の欠乏症にかかりやすい。また、カルシウム、鉄、亜鉛の摂取量も低くいだけでなく、タンパク質や多くの微量栄養素に欠けている。
 そのため、大人でも問題であるが、子供の成長には特に危険で、ニュージーランドで痛ましい事件が起きた。肉や魚、乳製品を一切食べないことに徹底した夫婦に男児が誕生したが、植物性食品だけの食事によりビタミンB12が欠乏し、男児は衰弱死した。両親は1度は子供を入院させたがすぐ連れ帰り、医師の指示に背いて死に至らしめたとして遺棄罪に問われている。
 植物性食品だけの食事法と病院を否定する松田麻美子の主張と同じことを実践した結果である。


2005/11/05 女性ホルモンのレベルが高いと魅力的?
 イギリス・アンドリュース大学の研究チームは、女性ホルモンの高い女性はより魅力的に感じられるとイギリス王立協会誌に発表した。研究者らは、59人の女性について18歳と25歳のときに写真をとるとともに女性ホルモン(oestrone-3-glucuronide(E1G), pregnanediol-3-glucuronide(P3G))の量を分析した。30人のボランティア(15人の男性の女性と15女性)より魅力的な方の写真を選択する方法により評価した。その結果、女性ホルモンの量は女らしさや魅力、健康的などの項目と正の相関が認められた。しかし、お化粧をすると女性ホルモンの量と女らしさや魅力などとの相関は認められなくなった。

下記で両者の写真を見ることができる。上の写真が女性ホルモンが多いとき。
http://www.pubs.royalsoc.ac.uk/proceedingsb.shtml

【文献】
Smith., M.J.L., et al.: Facial appearance is a cue to oestrogen levels in women. Proc. R. Soc. Lond. B. Biol. Sci. [DOI: 10.1098/rspb.2005.3296] (2005)


2005/11/04 「朝食に果物を」と「朝食に果物だけ」は大違い
 「常識破りの超健康革命」(松田麻美子)では、『「バランスのとれた食事」をとらないようにすること-「バランスのとれた食事」をとっていると病気になる!』そうである。そのため、「朝食に果物だけ」摂取する必要があるそうだ。どこまで現代医学・科学を否定すれば気が済むのか。
 私たちの「朝食に果物を」の前提は、バランスの良い食生活である。現在、日本人の果物の摂取量が不足している。そのため、バランスの良い食生活になるように不足している果物や牛乳、ご飯などを食べる必要がある。「朝食に果物を」の科学データについては、果物&健康NEWS第77,78回を参照されたい。
 以上のように、「朝食に果物を」と「朝食に果物だけ」は大違いなのである。両者とも、朝に果物を勧めているが思想的には正反対である。松田らは現代医学・科学を否定、私たちは現代医学・科学を肯定している。


2005/11/03 子の寿命は父親の遺伝子次第か?
 寿命の長さと関係すると考えられている染色体の末端部のテロメアの長さは、父親から子に遺伝し、母親からは遺伝しない可能性があるとスウェーデン・ウメオ大の研究チームが発表した。
 人の遺伝情報を担うDNAは、24種類の染色体ごとに折り畳まれ、細胞核に含まれている。この染色体の末端部の「テロメア」の長さは、細胞が分裂を重ねるごとに短くなり、限界まで短くなると細胞が死ぬため、寿命を決める遺伝要因の一つと考えられている。女性が男性に比べて長生きするのは、女性の方がテロメアが短くなりにくいためだと考えられている。
 研究チームは、49家族の計132人について、血液の単球細胞のテロメアの長さを分析した結果、男性の平均テロメア減少率は年間25塩基対、女性は同16塩基対でああることが分かった。
 さらに、父、母、息子、娘の4グループに分け、親子間のテロメア減少率の相関関係を調べると、父と息子や娘との間には統計的に強い関係があったが、母と息子や娘とは関係がなかったとしている。 

【文献】
Nordfjall, K., et al.: Telomere length and heredity: Indications of paternal inheritance. PNAS, (October 28, 2005) [doi. 10.1073/pnas.0501724102]


2005/11/02 医学・科学の進歩を否定する人
 「常識破りの超健康革命」(松田麻美子)では、「病院にはできるだけ行かないようにすること。医者のストライキがあると死亡率が激減する!」とある。まさに、非科学的な書であることを宣言している文章である。医学・科学の進歩が、病気を治し、平均余命を大幅に延ばしたことを否定している。医学・科学の進歩を完全に否定している。非常識の限界をも越えている。


2005/11/01 早期退職者の寿命は短い?
 英医学雑誌に55歳で退職すると、その後10年間に死亡するリスクが65歳で退職した人に比べて有意に高いと報告された。定年前に早期退職し、リラックスした生活を送り、長生きをすると考えられているが、従来通りの刺激のある生活を送ったほうが、寿命は長くなる。1973-2003年に退職した3500人以上を対象に調査したところ、55歳で退職した人では65歳で退職した人よりも死亡率が37%高かった。
 この結果に対して、55歳で退職した人は、退職時に健康上何らかの問題がすでに存在していたためではないかとの指摘がある。一方、退職時に仕事の重要性を過小評価している人が多いとの意見もある。

【文献】
Tsai, S.P, et al.: Age at retirement and long term survival of an industrial population: prospective cohort study. BMJ 331:995 [doi: 10.1136/bmj.38586.448704.E0] (21 Oct 2005)