2006年4月


2006/04/30 ちょっとした生活習慣の変化で寿命が延びる
 イギリスのケンブリッジ大学が25,000人以上を対象に行った研究から、果物と野菜を5単位以上摂取すると誰でも3年間寿命が延び、禁煙すると4-5年、適度な運動で3年間など、合計すると10-11歳以上も若返るとBBCが伝えている。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/4941910.stm


2006/04/29 果物についての最近の新聞記事から
 果物についての新聞記事が最近増えたように思うのはひいき目だからだろうか。4月28日付け毎日新聞が大阪で人気の「マンゴーかき氷」の記事http://www.mainichi-msn.co.jp/kansai/tekuteku_osaka/news/20060428org00m070080000c.html)、朝日新聞と読売新聞は「冷凍ミカン」の記事(http://www.asahi.com/life/update/0428/005.html/http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/shizuoka/news001.htm )を掲載している。ミラクルフルーツ(http://www.mainichi-msn.co.jp/kansai/tekuteku_osaka/news/20060426org00m100086000c.html毎日新聞4/26)、レモン懐石(http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/ehime/news001.htm読売新聞4/29)もある。秋には果物に関するニュースが多く掲載されるが、果物が品薄となる春にこんなに記事が多くなるとは嬉しい。「果物&健康NEWS」がちょっぴり貢献しているのかも?


2006/04/28 メルマガ「果物&健康NEWS」100号を配信
 2004年2月26日に創刊号を配信してから、ほぼ週刊でメールマガジン「果物&健康NEWS」を発行してきました。今日、100号を配信することが出来ました。記事内容に困ることはありませんでしたが、時間不足に悩まされ続けています。
 記事の正確さや質を落とさないように内容の確認やつめをギリギリまで行っているため、時には配信担当者を悩ませたこともあります。また、健康機能性の実験や果物の鮮度保持の実験、そして、会議等により、ある時は時間不足で記事を変更したこともあります。
 平成12(2000)年6月に化学工業日報社から出版した「果物の真実」の中で、健康の維持・増進には果物を毎日200グラム摂取することが必要であると、最初に提唱してから6年になります。まだまだ、道半ばですが潮目は変わったと思っています。
 しかし、ここまでの道のりは順調とは言えませんでした。果物を毎日200g摂取する必要があるとの提言に対して最初の批判者はF氏でした。メルマガ発行に対して冷ややかな視線を感じることも多々あります。また、メルマガ発行は業績としても低い評価です。
 とはいえ、そうしたことに怯んで、佇んでいては前進しません。これからも元気に、地道に発行を続けていく予定です。ご支援をお願いします。


2006/04/27 インターフェロンを作る酵素の発見
 ウイルス感染を防ぐなどの働きのあるインターフェロン-αという物質が体内で作られるのに必要な酵素を理化学研究所のチームがマウスで見つけたと科学研究雑誌Natureに発表した。
 インターフェロン-αは、ウイルスなどの異物が体内に入ると作られ、免疫力を高める作用があるため、生体の感染防ぐ働きがある。だが、免疫力を高めすぎると、副作用で関節リウマチなどの疾患が起きることが知られている。
 そこで、マウスを用いてインターフェロン-αが作られる反応を検討した結果、インターフェロン-αを強く促す酵素(IκBキナーゼ-α(IKK-α))を見つけた。従って、この酵素をうまく調節できれば、免疫を高めてがんや感染症を治療できるばかりか、免疫を抑えてリュウマチなどを治療することも期待される。

【文献】
Hoshino, K. et al.: IB kinase- is critical for interferon- production induced by Toll-like receptors 7 and 9. Nature 440: 949-953. (2006) [doi: 10.1038/nature04641]


2006/04/27 「研究開発のリスクとる」とは
 平成17年2月14日に農林水産省農林水産技術会議からだされた農研機構の見直しに関する文書がある。その中で、農研機構は、「生物を対象としており自然条件に大きく左右されること等研究リスクが高い」研究を行うとしている。
 すなわち、食料自給率の向上、食の安全・安心の確保、環境負荷の低減などの困難な分野の研究はリスクが高いため、企業等ではできないので農研機構で行う必要があるとしている。具体的に言えば、農業が直面している困難な状況を打開するために、新しい発見やイノベーションにつながる発明が農研機構に求められている。
 しかし、新しい発見やイノベーションにつながる発明は、未知の世界への挑戦であることから失敗なしに成果を上げることは至難の技である。革新的な技術開発や新たな技術的知見の獲得は、失敗の積み重ねの上に成就されるものであり、科学技術は、失敗を克服することにより進歩してきた。
 「研究開発のリスクとる」とは、失敗を許容するという意味である。
 最近行き過ぎた論文主義により、失敗を恐れ低い目標を掲げる風潮がある。だが、そうなると農業科学技術立国となることは期待できないだろう。成果の評価は必要だが、志の高い研究には失敗を許容するような度量(システム)が必要である。


2006/04/26 リスクとブレークスルー
 その研究課題は難しすぎるし、リスクが大きすぎる。なぜならと理由を見つけるのは簡単である。だから、やめといたほうがいいという人は多い。その反対に、その研究は難しいけど面白そうだからやってみようという人はなかなかいない。リスクを分析し計算したら、大抵はやめようとなるだろう。
 でも、成功は計算できないけれど、「やってやろう」と言うことが研究のブレークスルーには大切だと思う。そうすれば不思議と道は開けると経験から学んだ。


2006/04/26 有機農法のリンゴ園は環境に優しい
 有機農法は、従来の農業より環境に優しいと考えられているが、今回この考えからを支持する研究結果が報告された。
 アメリカ・スタンフォード大学の研究チームは、リンゴ園を使って化学肥料(硝酸カルシウム)と有機肥料(鶏糞)、アルファルファについて調べた結果、環境へ与える影響が異なることが分かった。
 ワシントン州ヤキマバレーのリンゴ園の地下水の中の硝酸塩レベルを測定したところ、有機肥料とアルファルファを使った場合と比較して化学肥料を施肥した地区では硝酸塩の濃度が4.4~4.6倍高いことが分かった。
 また、窒素ガスの排出について測定したところ、有機肥料とアルファルファの区では無害な窒素ガスが多く排出することが分かった。

【文献】
Kramer, S.B., et al.: Reduced nitrate leaching and enhanced denitrifier activity and efficiency in organically fertilized soils. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 103: 4522-4527. (2006) [doi: 10.1073/pnas.0600359103]


2006/04/25 前立腺ガンの進行を止めるには
 前立腺ガンと診断された男性が、早期に、食事の内容とライフスタイルを変更したところ、1年で前立腺ガンの症状を示す値(PSA)が改善されたと報告された。
 前立腺ガンと診断されたが、まだ、転移しておらず、手術、放射線治療、化学療法などを全く受けていない93人を対象に食事、ライフスタイルを変えるグループと、従来通りの生活を続けるグループ2つに分けた。また、食事、ライフスタイルを変更したグループの食事は、果物、野菜、大豆など豆類、全粒穀物、を中心としたものに換え、さらに、フィッシュオイル、ビタミンEとCを多く摂取するようにし、1日30分間、週6日間のウオーキング、ヨガをベースにしたストレス・マネージメント(ストレッチ、呼吸法、リラクセ-ションなど)を1日1時間行った。また、週に1時間開かれる「同じ仲間の会」に参加した。
 1年後、血中の腫瘍マーカーであるPSA(前立腺ガン特異抗原)を測定した結果、食事内容とライフスタイルを変更したグループのPASは、1年前より平均4%下がり、前立腺ガンの進行が抑えられていた。しかも、食事、ライフスタイル の変化の度合いが大きかった人ほど、PSA値の下がり方が大きかった。
 一方、食事、ライフスタイルを変えなかったグループは、PAS値が1年前より6%アップしていた。

【文献】
Ornish D, et al.: Intensive lifestyle changes may affect the progression of prostate cancer. J. Urology. 174: 1065-1070. (2005)


2006/04/24 そううつ病はミトコンドリアの異常が原因
 脳内細胞のミトコンドリアの機能障害が、そううつ病を引き起こす可能性があることをマウスで確かめたと理化学研究所などの研究チームが発表した。そううつ病のモデル動物はこれまでなく、今回できたこのモデル動物を使えば病気の治療法や新薬の開発につながると期待されている。
 そううつ病は「そう」と「うつ」の精神状態が交互に繰り返される病気で、脳の細胞内でエネルギーを生み出す小器官ミトコンドリアの機能障害が原因ではないかと考えられてきた。
 そこで、ミトコンドリアの機能が正常でないマウスを人為的に作出した結果、このマウスは、不眠症や「そう」と「うつ」の気分の波などのそううつ病の症状とよく似た行動異常を示した。この結果は、ミトコンドリアがそううつ病の原因である可能性を強く示唆している。

【文献】
Kasahara, K. et al.: The rat that has peculiar accumulation to the neuron of DNA mutation of mitochondria shows the expression type like mood disorders. Mol. Psychiatry adv. online April 18 2006 [doi: 10.1038/sj.mp.4001824]


2006/04/23 細胞内の自殖作用抑制で神経変性疾患が発症
 生物が飢えると細胞が自分の一部を食べる自食作用(オートファジー)は、マウスの新生児で盛んに見られることが知られている。飢餓状態の細胞は、細胞内に含まれているたんぱく質をアミノ酸に分解し、栄養とすることで飢えをしのぐ作用がある。しかし、栄養状態が良くても日常的にもわずかだこの自食作用が起きており、その理由は分からなかった。
 水島(東京都臨床医学総合研究所)らの研究グループは、マウスの遺伝子Atg5 (autophagy-related 5)を改変し、全身で自食作用を起こらなくした(文献1)。するとマウスは、神経と肝臓の細胞に異常なたんぱく質がたくさんたまり、生後1日で死亡した。
 さらに、神経細胞だけで起こらなくすると、生後1カ月でうまく歩けなくなり、刺激に十分に反応できない運動障害がみられた。脳の神経細胞には異常なたんぱく質の塊がたまっていた。この状態は、アルツハイマー病やパーキンソン病、ハンチントン病などの神経変性疾患と似ていた。
 また、田中(東京都臨床医学総合研究所)らの研究グループは、中枢神経系に関与するAtg7(autophagy-related 7),を欠くネズミが異常な行動を起こし出生後28週間以内に死亡したことを確認し、水島らと同じ結論を得た(文献2)。
 以上の結果から、自殖作用(オートファジー)は、栄養状態を調節するだけでなく、神経変性(アルツハイマー病やパーキンソン病、ハンチントン病など)を防ぐ働きがあると考えられた。

【文献】
1) Hara, T. et al.: Suppression of basal autophagy in neural cells causes neurodegenerative disease in mice. Nature online 19 April 2006 [doi:10.1038/nature04724]
2) Komatsu, M. et al.: Loss of autophagy in the central nervous system causes neurodegeneration in mice. Nature online 19 April 2006 [doi:10.1038/nature04723]


2006/04/22 脳細胞が死なない理由
 年齢とともに脳細胞は死んでゆく(アポトーシス)が、頭をよく使うと脳細胞が死なないのはなぜかが分かったと東京大学の研究チームが科学研究雑誌Cellに発表した。
 研究グループは、細胞内で物質を運ぶ役割を担うキネシン・スーパーファミリー・タンパク質4(kinesin superfamily protein 4: KIF4)に着目し、マウスなどで調べた結果、あまり使われない神経細胞では、KIF4がpoly (ADP-ribose) polymerase-1(PARP1)という酵素と結合し、細胞死が導かれることが分かった。一方、よく使う神経細胞では、細胞内にカルシウムが多く流れ込み、PARP1酵素がリン酸化するためKIF4と結合せず細胞死を免れる。
 以上のことから、神経細胞の生死の鍵はKIF4が握っているとしている。そのため、脳細胞が死ぬのを食い止めたり、神経の再生が可能になると期待されている。

【文献】
Midorikawa, R. et al.: KIF4 Motor Regulates Activity-Dependent Neuronal Survival by Suppressing PARP-1 Enzymatic Activity. Cell 125: 371-383. (2006) [doi: 10.1016/j.cell.2006.02.039]


2006/04/21 女子大生の83%がダイエット経験
 アメリカの女子大生は、太り過ぎかどうかに関係なく83%がダイエットの経験をしているとアメリカ栄養学会雑誌に報告された。また、80%は運動を試みたが目標体重を達成したのはわずか19%であった。さらに、9%が喫煙をし、32%が朝食抜きの生活をしている。

【文献】
Malinauskas, B.M. et al.: Dieting practices, weight perceptions, and body composition: A comparison of normal weight, overweight, and obese college females. Nutr. J. 5: 11. (2006) [doi: 10.1186/1475-2891-5-11]


2006/04/20 緑茶・コーヒーに糖尿病予防効果
 大阪大の磯教授らの研究グループは、全国約1万7000人の追跡調査から緑茶やコーヒーを多く飲む人は糖尿病になりにくいと発表した。
 40~65歳の男女で、糖尿病やがん、心臓病になっていなかった1万7413人を5年間調べた結果、このうち444人が糖尿病を発症した。
 緑茶の摂取量との関係では1日6杯以上飲む人は、週1杯未満の人に比べて糖尿病の発症リスクが33%減っていた。コーヒーを1日3杯以上飲む人も、週1杯未満の人に比べ42%減だった。 しかし、紅茶やウーロン茶にはこうした傾向は認められなかった。
 さらに身長と体重から肥満と判定される人でも、コーヒーや緑茶などによるカフェイン摂取量が多い人は、発症リスクが大きく減っていた。
 緑茶やコーヒーに糖尿病予防効果があるのは、糖尿病につながるインスリン抵抗性(インスリンが効きにくい状態)を改善する抗酸化性物質の効果と考えられている。

【文献】
Iso, H. et al.: The relationship between green tea and total caffeine intake and risk for self-reported type 2 diabetes among Japanese adults. Ann. Intern. Med. 144: 554-62. (2006)


2006/04/19 投与薬剤の効果判定に期待
 がんは、遺伝子をつくる化学物質「塩基」の並び方に異常があると、細胞が急増して起こる。この異常は、同じ種類の塩基が連続して数個並んでいる場所でよく発生する。
 札幌医大など日欧の研究グループは、大腸がんや胃がん、子宮がんの患者計181人から摘出したがん細胞を分析した結果、約2割の40人で同じ種類の塩基が連続して並んでいる異常を発見した。さらに、試験管内で、これらのがん細胞にトリコスタチンAなど3種類の抗がん剤を加えると、がん細胞消滅など効果が表れる場合とない場合があることが分かった。
 原因を分析したところ、遺伝子の働きを抑える酵素「ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)」の構造に微妙な違いがあり、抗がん剤の効き目を左右していることが明かとなった。患者の遺伝子をあらかじめ調べてHDACの構造を分析することで、抗がん剤を投与前にその効果の有無を把握できる可能性が示唆されている。

【文献】
Ropero, S. et al,.: A truncating mutation of HDAC2 in human cancers confers resistance to histone deacetylase inhibition. Nature Genetics online 16 April 2006 [doi:10.1038/ng1773]


2006/04/18 仕事と涙
 毎日新聞のサイトに「記者スタイル」というコーナーがある。毎日新聞記者の体験談をもとに構成したショートストーリーだが、2月22日の大阪版に掲載された「涙」をウエブサイトで読める。文章は以下のように始まる。

 彼女は重い足取りでボックスに戻った。午前1時を回っている。取材を重ねてきた内職商法事件が今朝にもはじけそうな感触をつかんだものの、逮捕状を取ったかどうか確認できなかった。
 ボックスのドアに手をかけたとき、彼女は左の目からぽろりと涙をこぼした。こらえようとしたが、右の目からも涙は勝手にあふれ出た。悔しくて泣いたのは初めてである。

 記者魂を感じさせる。こうした記者がいる毎日新聞は働きがいのある職場なのだろう。科学研究の現場も同じだ。何度やっても実験がうまくいかない時期がある。その悔しさを乗り越えて創造的な研究の道が拓ける。それを支えるのが働きがいのある職場である。困ったことにそういうことが分からないトップがいる。

記者スタイル「涙」の全文は下記で読める。
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/style/
news/20060222ddn010070049000c.html



2006/04/17 一家に1枚ヒトゲノムマップ
 人間の全遺伝情報であるヒトゲノムを、一般向けに解説した「一家に1枚ヒトゲノムマップ」を文部科学省が作成した。4月17日から始まる科学技術週間にあわせて全国の主要科学館等を通じて希望者に配布する(先着順で約5万枚)。また、全国の小、中、高校に計4万枚を配る。その他、ホームページ上からダウンロードできるPDF版も用意されている(用紙サイズA3,A2)。
 ヒトゲノムは約2万6800個の遺伝子を含む。マップにはその約1%を記載し、「コラーゲンをつくる遺伝子」や「お酒への強さを決める遺伝子」など身近なものをイラスト入りで解説してある。

PDF版のダウンロードは下記のサイトからできる。
http://stw.mext.go.jp/20060414/index.html


2006/04/16 2006年度版、世界都市の「生活快適度」
 ニューヨークを本拠とする人事・組織コンサルティング会社マーサーが、世界215カ所の都市を対象に、生活の「快適度」に関する最新調査結果を発表した。
 その報告によるとスイスのチューリヒが昨年に続き、首位を維持した。次いでジュネーブ、カナダのバンクーバーとなり、上位3都市は昨年と同じ結果となっている。アジアでは、シンガポールが1位で、2位が東京、3位が横浜であった。
 ワースト3は、イラクの首都バグダッド、次いで、中央アフリカ共和国の首都バンギ、コンゴ共和国の首都ブラザビルである。
 昨年から順位が最も上がったのはシカゴで、犯罪発生率の減少などの効果で、52位から41位へ。この一方、混迷する中東情勢やテロ事件の発生などを受け、エジプトの首都カイロは122位から131位へ順位を落とした。

 毎年実施する調査は、政治的な安定性、学校、バー、レストラン、環境など計39項目での満足度をニューヨークを100として比べている。

プレスリースのサイトは下記。
http://www.mercerhr.com/qualityofliving


2006/04/15 肥満になりやすい遺伝子の発見
 太りやすさに関係しているDNAの型を新たに発見したと、アメリカ・ボストン大などの研究チームが発表した。
 研究チームはアメリカ人約700人の血液サンプルと体格データを使って、DNAの塩基が1カ所だけ置き換わっているSNP(single nucleotide polymorphism)と肥満との関係について約8万7000カ所解析した結果、遺伝子「INSIG2」の近くにSNPがある人は、そうでない人より1.3倍肥満になりやすいことが分かった。
 この遺伝子は、コレステロールなどの合成を抑制することが知られており、動物実験では肥満との関係が明かとなっている。今回見つけられたSNPが遺伝子の働きを阻害するような影響を及ぼしていると考えられている。
 また、西欧系米国人、アフリカ系米国人、子どもからなる異なった集団でもSNPと肥満との関係が確かめられた。
 危険度はそれほど大きくないものの、今回の調査では約10人に1人の割合でこの型がみられ、肥満の予防や治療法の開発につながると期待される。

【文献】
Herbert, A. et al.: A Common Genetic Variant Is Associated with Adult and Childhood Obesity. Science 312: 279-283. (2006) [DOI: 10.1126/science.1124779]


2006/04/14 植物内部の水分を調節する遺伝子の発見
 植物内部の水分を調節するホルモンの量を変える遺伝子を見つけと理化学研究所のグループが発表した。
 植物は、葉の裏にある「気孔」が開閉し、水分の量を調節している。この気孔の開閉を調節しているのがアブシジン酸という植物ホルモンである。周囲が乾燥すると、アブシジン酸が合成されて量が増え、気孔が閉じて植物体内の水分が保たれる。この植物ホルモンがつくられる仕組みはわかっていたが、量の調節機構は分からなかった。
 そこで、シロイヌナズナの遺伝子CYP707A3を改変し、アブシジン酸の量を通常の3分の1から2倍まで変えたところ、シロイヌナズナはしおれたり、葉をピンと張ったりした。 この実験から、この遺伝子CYP707A3がアブシジン酸の分解に働き、水分を調整していると考えられた。

【文献】
Umezawa, T. et al.: CYP707A3, a major ABA 8'-hydroxylase involved in dehydration and rehydration response in Arabidopsis thaliana. Plant J. 46:171-182. (2006) [doi: 10.1111/j.1365-313X.2006.02683.x]


2006/04/13 可視光で水から水素を取り出す
 目に見える光(可視光)をあてると、水を分解して水素を発生する新しい光触媒について東京大学、長岡工科大学などの研究グループが見つけた。水素は、燃やしても水しか出ないクリーンエネルギーである。
 光触媒とは、光があたると化学反応を促進する物質のことで、水を水素と酸素に分解できる物質も知られていたが、紫外線だけに反応するものが多かった。
 水素製造に使うには、太陽光に多く含まれる可視光を有効利用することが欠かせない。そこで、研究グループは、窒化ガリウムと酸化亜鉛をまぜた黄色い粉末に助触媒を加えると、可視光にも反応する光触媒になり、可視光による水の分解効率が従来より約10倍高くなることを発見した。
 太陽光と水から水素を大量に作るという化学者の長年の夢に道を開く成果である。

【文献】
Maeda, K., et al.: Photocatalyst releasing hydrogen from water. Nature 440: 295. (2006) [doi: 10.1038/440295a]


2006/04/12 食物繊維は心臓病、糖尿病に有効
 食物繊維が豊富な食事は、血中のC反応性タンパク質(CRP)を下げることが分かった。C反応性タンパク質(CRP)は、身体の炎症のマーカーで、このタンパク質が高いと将来、心臓病や糖尿病になる危険が高まる。
 健康な524人を対象に調査した結果、食物繊維を沢山摂取している人はC反応性タンパク質(CRP)の濃度が低いことが分かった。食物繊維の摂取量が最も少ないグループに比べて最も多いグループではCRPの濃度が63%低いことが分かった。
 何故、食物繊維の摂取がCRPを下げるのかはまだ分かっていないが、研究者らは、食物繊維が、コレステロールや血糖値を下げるためと推測している。
 この研究は、心臓病、糖尿病予防に果物などから食物繊維を1日当たり20-35g摂取することとする指針を支持する結果である。

【文献】
Ma, Y. et al.: Association between dietary fiber and serum C-reactive protein. Am. J. Clin. Nutr. 83: 760-766. (2006)


2006/04/11 共感する思い
 裏庭の隅に植えられていた花桃が真っ赤に咲いている。
 研究仲間が良い仕事をすると嬉しくなる。こうした人と人とのかかわりあいには、そこにかならず何か通いあうものがある。組織のために縁の下の力持ちになっている研究者、使命感を持って一所懸命やっている研究者、本当に苦労したことがある研究者は、それぞれに共感する思いが深い。こうした共感がさらによい仕事を生み出していく。士気が高いとはそういうことではないだろうか。


2006/04/11 硫化鉄のうろこを持つ巻き貝
 よろいのような硫化鉄のうろこを持つ巻き貝「スケーリーフット」の採取と飼育実験に、新江ノ島水族館などの研究グループが成功した。この貝はインド洋深海底でしか生息が確認されていない。
 研究グループは、2006年2月に有人潜水調査船「しんかい6500」により、硫化鉄の鱗を持った巻貝Crysomallon(俗名:スケーリーフット(「鱗をまとった足」の意))を深海底の熱水活動環境において観察し、さらに初めて船上に持ち帰っての水槽飼育による観察を行うことに成功した。うろこは腹足部を覆い、硬さは人間の歯の倍程度で、外敵から身を守るためと考えられている。
 新江ノ島水族館では深海コーナーで展示を行っている。

巻き貝「スケーリーフット」の写真は下記のサイトで見られる。
写真1
http://www.jamstec.go.jp/jamstec-j/PR/0603/0330/photo1.jpg
写真2
http://www.jamstec.go.jp/jamstec-j/PR/0603/0330/photo2.jpg
新江ノ島水族館のホームページは下記。
http://www.enosui.com/news/detail/2006tenji_06.html


2006/04/10 マグネシウムでメタボリックシンドロームのリスク低下
 糖尿病や冠動脈疾患につながるメタボリックシンドロームの罹患率低下に、マグネシウムの豊富な食品が役立つことがアメリカ・ノースウェスタン大学などの研究グループが明らかにした。
 アメリカ人約4,600人を対象として1985年に開始された研究で、マグネシウム摂取量の多い人は、その後の15年間のメタボリックシンドローム発症リスクが31%低いことが分かった。
 メタボリックシンドロームの症状には、高血圧、高血糖、高脂血症のほか、「善玉」であるHDLコレステロールの低下などが含まれる。このうち3つ以上が認められると、心血管疾患および糖尿病のリスクが増大する。

【文献】
He, K., et al.: Magnesium Intake and Incidence of Metabolic Syndrome Among Young Adults. Circulation 113: 1675-1682 (2006) [doi: 10.1161/CIRCULATIONAHA.105.588327]


2006/04/09 韓国人の食物繊維の摂取量
 韓国人は、アメリカ人や日本人に比べて食物繊維をたくさん摂取していることが韓国保健福祉部の調査で分かったと韓国中央日報が伝えている(06/04/03)。、韓国人1人1日当たり平均19.8gの食物繊維を摂取しているが、この量は、アメリカ人(15.1g)や日本人(15.4g)に比べて30%ほど多い。 理由として、食物繊維が多いコメを主食としているうえ、キムチやトウガラシ、海草類などをよく食べるためとしている。しかし、韓国栄養学会の推奨量には届いていない。


2006/04/08 日本、長寿国世界一(WHO世界保健報告から)
 世界保健機関(WHO)は、2006年版の「世界保健報告」を発表した。それによると2004年の平均寿命が世界で一番長いのは日本、モナコ、サンマリノの82歳で、日本は「長寿世界一」である。男女別では日本女性が86歳で最長寿、男性は日本、アイスランド、サンマリノが79歳である。
 世界192カ国中、日本など16カ国で平均寿命が80歳以上であるのに対し、アフリカの26カ国にアフガニスタンを加えた27カ国は50歳未満だった。最も平均寿命が短いのはジンバブエの36歳である。

 WHOの寿命に関する報告は下記のサイトで読める。
 http://www.who.int/whr/2006/annex/06_annex1_en.pdf

 最も平均寿命が短かったジンバブエは、南アフリカの北に位置する国である。コレラ、サルモネラ、マラリア、赤痢など感染症の蔓延や治安の悪さなどが死亡原因である。

 外務省のジンバブエに対する海外安全情報は下記のサイトで読める。
 http://www.anzen.mofa.go.jp/info/info4.asp?id=106


2006/04/07 健康・安全を重視/農林公庫調査から
 女性の食へのこだわりは「健康・安全」が最も高く、美食や価格を上回ることが、農林漁業金融公庫の調査で分かった。食を通じた健康への取り組みでは、7割の人が「野菜や果物を多く摂取」と答えたが、「サプリメントによる栄養補助」を挙げる人も多く、健康食品への関心の高さを裏付けた。
 調査は今年2月、20歳以上の女性、2094人を対象にインターネットで行った。それによると、食に対する最も強い関心は、30%の人が「健康・安全」と答え、1位だった。次いで「美食」が19%、「安さ(経済性)」が12%と、グルメ志向や経済性より健康・安全の方に関心が高かった。
 「国産」へのこだわりは10%とそれほど高くはなかったが、それでも「簡便化」や「高級志向」を上回った。「健康・安全」志向の人は年齢層が高いほど多く、50代後半の女性では43%に上る。逆に、「美食」や「安さ(経済性)」を志向する人は若年層に多かった。「美食」に最もこだわる人は20代後半で32%に上り、「安さ(経済性)」は、30代後半で22%を占めた。

農林漁業金融公庫の「 健康に役立つ食品に関する調査」は下記のサイトにある。
http://www.afc.go.jp/your-field/investigate/
pdf/shohi-h17-02.pdf



2006/04/06 35億年前にメタンつくる微生物
 35億年前にメタンをつくる微生物が存在したと東京工業大の研究グループが科学雑誌ネイチャーに発表した。これまで考えられていた約28億年前という説を約7億年さかのぼった。
 メタン生成菌は、最も原始的な生命体の1つであると思われるが、それが地球上に初めて現れた時期ははっきりしていない。始生代(25億年前以前)には、メタン生成菌が温室効果ガスであるメタンを十分な量供給し、その時代の低い太陽光度による極寒の条件を軽減することにより、気候を調節するうえで重要だった可能性がある。
 研究グループは、オーストラリア西部の35億年前(34億6000万年以上前)の岩石中にとりこまれた泡を解析し、水や二酸化炭素のほか、微量なメタンを見つけた。メタンに含まれる炭素を分析した結果、これは生物がつくったものだとわかった。
 炭素には、質量が異なる2種類があり、噴火などでもたらされたメタンと、生物の活動によってできたものでは、2種類の比が異なっているためである。
 地球生命の誕生は約38億年前とされるが、初期の生物がどのような活動をしていたのかはほとんどわかってい。今回の発見は、初期の微生物が大気と気候に与える影響の解明に役立つ成果である。

【文献】
Ueno, Y., et al.: Evidence from fluid inclusions for microbial methanogenesis in the early Archaean era. Nature 440: 516-519. (2006) [doi: 10.1038/nature04584]


2006/04/05 新所長挨拶「組織の先頭に立って」
 駒村新所長の挨拶が昨日あった。その中で「組織の先頭に立ってがんばる」との言葉があった。長い間待っていた言葉である。静かな言葉の中に熱い思いを感じた。厳しい果樹農業を切り拓くために先頭に立つのはやはり所長である。その熱い思いに導かれて組織員が研究のブレークスルーを求めて戦うのではないか。
 前K/F体制では、私が知る限りこの言葉を聞いたことがない。その代わり、命令通りにやれ!責任はおまえがとれだった。こんな言葉には奮い立たない。


2006/04/04 ビタミンCの老化抑制効果
 東京都老人総合研究所と東京医科歯科大大学院の研究グループは、ビタミンCが不足すると老化が進むことをマウスの実験から解明した。
 研究グループは、老化が進むと減る特定のたんぱく質(SMP30)を特定し、その性質を解析した結果、ビタミンCを合成する酵素(gluconolactonases)と同一であることが分かった。そこで、遺伝子操作でこのたんぱく質を持たないマウスを作り、正常なマウスと同時に飼育したところ、6カ月たつと、正常なマウスはすべて生きていたが、このたんぱく質を持たないマウスは半数が老衰で死んだ。死因は老衰で、4倍の速さで老化が進行したことになる。
 さらに、ビタミンCを全く含まないえさでこのマウスを飼育すると、人がビタミンCの欠乏でかかる壊血病の症状が現れて、約半年後にはすべてが死んだ。
 今回の実験から直ちに人でもビタミンCを摂取すれば老化が予防できるとはならないが、その可能性を示す有力な証拠である。

【文献】
Kondo, Y., et al.: Senescence marker protein 30 functions as gluconolactonase in L-ascorbic acid biosynthesis, and its knockout mice are prone to scurvy. Proc. Natl. Acad. Sci. 103: 5723-5728. (2006) [doi 10.1073/pnas.0511225103]


2006/04/04 ねつ造事件に対する韓国KBSテレビの報道が事実なら
 韓国KBSテレビは、ES細胞ねつ造事件を捜査している検察当局が、黄禹錫(ファンウソク)・元ソウル大教授は、事件が表面化する昨年10月までES細胞ねつ造の事実を知らず、ヒトクローン胚からつくったES細胞の存在を信じていたとの暫定的な結論を出したと報じたと毎日新聞が伝えている(06/4/4)。
 論文ねつ造は、研究チームの一員だった男性研究員の単独犯であるとする報道が事実なら、東京大学と大阪大学でおきた論文ねつ造事件と同じ状況になる。韓国の厳しい処分に対して、日本ではどうだろうか。
 東京大学では、指導教授の研究室の閉鎖などかなり厳しい処分をするようである。一方、大阪大学では、指導教授2人をそれぞれ停職1ヶ月と2週間の軽い処分で終結した。


2006/04/03 内臓脂肪が神経通して食欲調節
 東北大学の研究グループは、内臓脂肪に神経を通して食欲を制御する働きがあることを動物実験で解明し、科学雑誌Cell Metabolismに発表した。
 研究グループは、食欲抑制の刺激が脂肪組織から神経を通して脳に伝わると考え、マウスの脂肪組織から脳に向かう神経を切断したところ、予想通りマウスの食欲は低下しなかった。
 内臓脂肪は、メタボリックシンドローム( 高血圧、糖尿病、高脂 血症をひきおこし、動脈硬化を進行させる病気)と関係することから、研究グループは、この神経伝達機構の解明により新しい治療法が開発されるとしている。

【文献】
Yamada, T., et al.: Signals from intra-abdominal fat modulate insulin and leptin sensitivity through different mechanisms: Neuronal involvement in food-intake regulation. Cell Metabolism 3: 223-229. (2006)


2006/04/01 新研究所長に期待
 故松下幸之助氏は、「世間一般では非常にすぐれた一人の人かワンマンで経営すれば、事がうまくいくということをよく言いますか、社長一人で事を遂行することはできませんし、たとえできても、それは失敗に終わるだろうと思います。やはり全員の総意によっていかになすべきかを考えねばならない」と言っている。
 この言葉は、重要な意思決定において組織員による質の高い討議が大切であることを述べているのだと思う。松下幸之助は古いという人がいるかも知れないが、ゼロックスの崩壊と復活の過程でも、再生の鍵は意思疏通であった。
 創造力に依存することの大きい研究機関では特に大切な点である。このことを新果樹研究所長に期待したいし、そのことを期待できる人である。